問題解決する栄養療法⾷品

リーダーインタビュー

ここで学べること
栄養療法の世界とは、栄養療法ができることは?
今、注目の「栄養療法」について、この世界を牽引する第一人者に伺いました。

通常カフェメニューも嚥下食で提供
見た目もおいしさも重視した嚥下食で
カフェの全国展開を目指す


歯科医師 近石壮登さん<第3回配信>


「食」をテーマに総合病院に歯科・口腔外科を設立、嚥下食を楽しめるカフェを作った歯科医師、近石壮登さんに話を聞きました。



p_interview_chikaishi.jpg医療法人社団登豊会近石病院理事、歯科・口腔外科 歯科医師、「カムカムスワロー」代表。日本歯科大学卒業。卒業後は、藤田医科大学にて口腔外科、摂食・嚥下リハビリテーションの診療に従事した後、2021年4月から実家である近石病院の歯科・口腔外科へ。病院内および施設や患者宅での在宅診療で活躍するほか、「カムカムスワロー」を中心に地域でも積極的に活動中。


歯科医師・森田達さん
医療法人社団登豊会 近石病院 歯科・口腔外科 歯科医師


言語聴覚士 蛭牟田(ひるむた) 誠さん
医療法人社団登豊会近石病院 歯科・口腔外科 主任 言語聴覚士、「カムカムスワロー」マネージャー




 過去の連載 



Q.カムカムスワローでは、どのような嚥下食を提供していますか?


ゼリー化材やとろみ材で
カフェのメニューを嚥下食に。
栄養面では朝日大学との共同研究も実施。


近石:とろみ材でとろみをつけたジュースやコーヒーなどのドリンク、モーニング、ランチなどの通常メニューをゼリー化材で嚥下食にするほか、嚥下食のデザートも提供しています。


このとろみをつけたり、ゼリー化したりするのには、片栗粉やゼラチンなどを使用するのではなく、医療現場で利用される専用のものを使用します。例えば、「えん下困難者用食品」の表示許可を得ているニュートリー社製のとろみ調整用食品「ソフティアS」などです。えん下困難者用食品は、"えん下が困難な方に適した食品"として消費者庁から認められた特別用途食品で、嚥下障害のある方でも安心して食べることができます。


現在、ソフティアSでとろみをつけた「ぎふコーラ」をカムカムスワローで販売しています。ぎふコーラは、岐阜県内各地の名産品とスパイスを調合したクラフトコーラです。


p_article_3-1.jpgソフティアSを使った「とろみぎふコーラ」。


p_article_3-2.jpgカムカムスワローで提供されている嚥下食の例。


一方、私は今、朝日大学の摂食嚥下リハビリテーション学分野、谷口裕重教授の研究室の社会人大学院生でもあります。大学院では、ニュートリー社製の栄養調整食「ニュートリーコンク2.5」を使って、嚥下食の栄養価について共同研究をしています。


嚥下食は水分を必要としますが、その水分に普通の水を使うと栄養価が下がってしまいます。水分の一部をニュートリーコンク2.5に置き換えたときの栄養状態、口腔内の状態などがどうなるかという研究を、今、谷口先生とニュートリーさんと一緒に行っています。2023年9月には、日本摂食嚥下リハビリテーション学会で成果を発表しました。*


*近石 壮登, 谷口 裕重, 中尾 幸恵, 大塚 あつ子, 中澤 悠里, 多田 瑛, 水谷 早貴, 岩瀬 陽子. 嚥下調整食喫食者への栄養強化が栄養状態および口腔内の状況におよぼす影響.第29回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会


Q.クラウドファンディングも実施されましたが、その取組内容は?


岐阜市内のレストランと共同で
おいしい嚥下食を開発。
外食機会創出と地域活性化を期待。


近石:東海地方は、関東や関西と比べると、まだまだ摂食嚥下の取組が遅れている地域です。そもそも嚥下食というと、ドロドロとしたペースト食をイメージしがちですが、実はそうではありません。工夫次第で見た目にもおいしい嚥下食ができることを、地域の方に知ってもらいたいと思いました。効率的にアピールしたい意図もあり、2023年8月から10月にかけて、地元の銀行が手がけるクラウドファンディングを活用しました。


p_article_3-3.pngクラウドファンディング募集ページと実際の嚥下食(現在は募集を終了しています)。


プロジェクトの具体的な内容は、岐阜市内の嚥下食を扱っているレストラン2店舗、フランス料理とオーガニック料理のお店にご協力いただき、嚥下食を開発してカムカムスワローで提供するというものです。地域を盛り上げるきっかけにしたいという狙いもあります。


見た目のおいしさも重視する理由は、ペースト状やゼリー状の食事では、パッと見たときに何かわかりづらく、食欲もわきづらいからです。実際、食形態が変わることで、あまり食べなくなってしまう方が多いです。それに対してできることは、ある程度、形を残しつつ、飲み込みやすいものをつくること。誰しも見た目に左右されるところがあるので、食欲を高めるという意味で、見た目にもおいしいもの、今までの嚥下食とは概念が異なる料理を提供することを目指しています。


蛭牟田:トライアルで試食会も行いました。最終的には、それぞれのお店で嚥下食を出していただく、さらには同様に嚥下食を提供する店舗をまずは岐阜県内から増やしていくのが目標です。


Q.カムカムスワローの今後の展望は?


遠方からも来店。
嚥下食の情報を伝える拠点として
いずれは全国展開も。


近石:嚥下食は、通常の食事にただとろみを付けたり、ゼリー化したりするだけのものからすごく進化していますが、それをご存じない方が多くいらっしゃいます。カムカムスワローが、嚥下食の今を知る拠点になれればと考えています。イベントやカフェには、愛知県や三重県など遠方からいらっしゃる方も多く、「こういうのが家の近くにあればいいのに」という声もよくいただいています。標準的なノウハウを確立して、ほかのところでも同じようなカフェを展開できればと思っているところです。


蛭牟田:嚥下食を必要とする方は、病院などで飲み込みの検査を受けると、どの嚥下食が適しているか選定しやすいです。なので、まずは脳梗塞や誤嚥性肺炎などを患った方に対して、この形態なら飲み込める・しっかり食べられるといった判断ができる病院、地域の診療所などを整えていく必要があると思います。全国的には、歯科が飲み込みの検査をしているケースはまだ少ないので、まずは診療する場所を整えて、そこから、このカムカムスワローのようなカフェを増やしていくと、安全性と楽しみをしっかりつなげていけるのではないかと思います。


森田:もう一つの問題は、嚥下食を提供しようとすると一般の飲食店やカフェでは手間がかかって採算が合わないことでしょう。ただ、カムカムスワローをモデルケースとして情報発信していくことで、全国で同じような取組をやってくださる方が増えるかもしれません。カムカムスワローの第2号店、第3号店、フランチャイズなど、何かしらの形で全国へ、世界へと飛び出していけたらと思っています。


近石:2023年10月、食やQOLに関する活動を病院がプロデュースし、カフェという形で地域に親しみやすく展開したという点で、2023年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)の「グッドデザイン・ベスト100」に選定され、社会からひとつお墨付きをいただきました。


p_article_3-4.jpgグッドデザイン賞の授賞式にて。近石先生(左)と蛭牟田先生(右)。


やはり、食べるということは栄養補充だけではない、楽しみや人とのコミュニケーションなどの側面があります。これは動物では人間だけだと思います。医療にとどまらず、いろいろな人とつながるきっかけとして、とても大事な「食」をテーマに、これからも取り組んでいきたいと思います。


※内容は2023年9月取材当時のものです。


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