問題解決する栄養療法⾷品

ニュートリション・ジャーナル

ここで学べること
病院・施設・在宅、医療者と患者。医療現場の「溝」を埋めるべく不定期発行中の情報誌。栄養療法の最先端をお届けします。

※このページは、医療介護従事者向け情報です。


命を脅かす"体重減少" 医療者は何ができるのか


加齢とともに体の機能が低下し動けなくなり、食べられなくなって呼吸が止まる。この経過を老衰というが、実際は大きな病気で居宅療養が始まる。最期まで自宅で穏やかに過ごせるかというと、救急搬送と入退院を繰り返し、階段状に体の機能が低下、介護度が悪化して病院で亡くなる。日本では7割近い方が、このような人生のラストを送っている。
意識すべきは低栄養の存在である。入院治療は患者に回復力があることが前提だが、居宅療養高齢者は栄養状態が悪く、回復力が乏しい。入院期間も長くなる傾向で、入院中に機能低下を招くことがあり、退院後、動けず、食べられないまま衰弱が進むことも。
「回復の要は体重減少を止めること」と語る佐々木淳先生(医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長)は、入院したから大丈夫ではなく、なるべく入院させないよう居宅療養中から継続的かつ計画的な健康管理と、急変した場合は入院時から退院支援を計画し、退院直後(2週間以内)の栄養介入を推奨する。推進するには医療者が居宅療養高齢者の低栄養は介入すべき医療的課題と認識する必要があるという。


※今号の内容は、8月25日に配信されたニュートリション・ジャーナルWEBセミナー「高齢者の"体重減少"を止める食支援」の内容をもとに再構成しました。


BMIと総死亡リスク.jpg


飢餓と炎症で"痩せ"が進行する患者


居宅療養高齢者の低栄養・痩せの原因は、必要な食事量を摂取できていない「飢餓」か「炎症反応」を伴う慢性的な基礎疾患により想定以上にエネルギーを消耗しているかに大別できる。必要なエネルギーやたんぱく質が不足すると体を分解して不足を補う。結果、運動機能が低下して動くのが億劫になり食欲も低下して痩せていく。

日本の高齢者は年齢とともに低体重の割合が増えるが、居宅療養高齢者の平均BMIは18で、「痩せ気味」に分類される体に大きな負荷がかかると体力を激しく消耗し亡くなる確率が高いという。米国の高齢者病院で行われた研究で、入院患者の栄養状態を良好、不良、AT RISKに分け、入院というイベントが起こった後の生存曲線を調べたところ、良好患者は入院から3年後に約8割が生存し、不良患者(低体重や体重減少傾向の患者)の生存は4分の1程度。
「居宅療養高齢者が優先すべきは、栄養ケアにより体重減少を止めること」と語るのは佐々木淳先生だ。栄養介入するには栄養評価が必要であるが、体重減少を止めるための具体的な提案もしてほしい、という。
「体重減少の期間と減った重さから栄養状態改善のために追加する栄養量を算出することができる。例えば3カ月(=90日)で-4.5kgとなった方の体重減少を止めたい場合、"約7200kcal×4.5kg=32,400kcal不足"と計算できる。これを90日で割れば1日360kcalの栄養補助食品を追加するよう提案ができる。まずは体重を守ることに注力してもらいたい」。


※個人差があり、体重を1kg増やすためには7,200~20,000kcalが必要といわれている。


入退院を繰り返す居宅療養高齢者
"入退院時"のケアに必要な2つの視点


①日頃からの継続的かつ計画的な健康管理で、なるべく入院させない


居宅療養高齢者の緊急入院の原因は約50%が肺炎関連(多くは誤嚥性肺炎)、そして骨折と続く。肺炎で入院になった患者は3分の1近い方が入院中に亡くなり、退院できた方は平均で要介護度が+1.72悪化。骨折で入院した方も1割弱の方が入院中に亡くなり、退院できた方は平均で要介護度が+1.54悪化(図1)。入院すると、臥床により身体機能・認知機能が低下する。これを入院関連機能障害といい、高齢の方が10日間入院すると、7年分の老化に相当する骨格筋が喪失する。居宅療養高齢者の場合、入院期間が長くなる傾向にある。「入院できたら安心と思う方も多いが、低栄養に起因する全身機能の低下がみられる場合、入院そのものがリスクかもしれない」と佐々木先生は言う。
在宅医療・訪問看護などを利用する患者は、低栄養の割合が50%まで上がり、AT RISKの方が40%。栄養状態に問題がないという方は1割。居宅療養高齢者は栄養状態が悪く、筋肉が弱っているという共通のバックグラウンドがある。栄養は回復力の要。日頃からの継続的かつ計画的な健康管理を行い、体重減少を止める視点でなるべく入院しないよう、栄養介入が必要である。図1.jpg


②入院時から退院支援を開始。退院直後2週間以内に栄養介入を


例えば、多くの医療機関で未だに誤嚥性肺炎は「誤嚥したら大変だ!」という思い込みがあり、適切な摂食嚥下機能評価がされないまま"とりあえず食止め"となっているケースが多い。「全国のDPC病院でどんな栄養管理が行われているか調べた研究で、入院初日はとりあえず全員食止め。入院1週間後でも食事を開始していない方が4割。そして1ヵ月以上入院が長引いている方の、食事ができている割合は下がっていく。静脈栄養が実施されている患者の1割は、なんと末梢輸液だけで管理されている。劣悪な栄養管理と言わざるを得ない現状がある」と警鐘を鳴らす。
入院時にとりあえず食止めの患者と、摂食機能の評価を早期に行い食べられるものから経口摂取を開始した患者を比べると、前者の死亡率は高く、入院期間が長い。経口摂取の再開率も低く、当然ながら全入院期間中の栄養摂取量が低い(図2)。


誤嚥性肺炎で入院した方に食止めをすると、厳しいアウトカムが待っている。退院直後は骨格筋量の減少、サルコペニアが進行、脱水や栄養不足、口腔機能の低下、せん妄、薬の効きすぎなどの要因で本来の機能よりもかなり弱った状態で帰ってくる。「退院直後の状態は仮の姿」と語る佐々木先生は退院後2週間以内に、入院関連機能障害で失った機能を本来のレベルまで戻していくよう推奨する。そこから先は計画的に栄養ケアとリハビリテーションを行い、ゆっくり元気な時に近づけていけばいいという。図2.jpg


居宅療養高齢者を取り巻く 医療者の「栄養」に対する 無関心が課題


栄養ケアを自宅に引き継ぐには、①何をどれ程食べられているのか②どんな栄養ケアが行われてきたのか③どのように嚥下評価をしたのかを病院から受け取りたいが、残念ながら病院の看護サマリーには栄養に関する情報が十分にない、あるいは載っていないかもしれない。そして受け取る在宅側も栄養の情報をあまり意識して見ていない状況が明らかになっている。
そんな中、令和4年度の診療報酬改定で入退院支援加算の要件見直しが行われた。佐々木先生は「居宅療養高齢者の低栄養は介入すべき医療的課題の一つ。意識改革を」と呼びかけている。



体重減少を止める食支援の具体策


居宅療養高齢者の栄養ケアのポイントは、低栄養の早期発見と適切な介入、体重変化の観察である。食の細い高齢者への栄養治療には、市販されている特別用途食品も病院や在宅で活用されている。そこで今回、居宅療養高齢者の食支援に取り組む3名の先生方に特別用途食品として、消費者庁より表示許可を得た「ブイ・クレスCP10(シーピーテン)ミックスフルーツ」のドリンクとゼリーについて、活用シーンと実際の症例を伺った。


食支援の具体策.jpg


Q1.必要栄養量を満たしているのに、体重が増えないときは?
A1.エネルギーの消耗を疑う


以前、COPDの方で必要量の2倍の栄養量でやっと体重が増加した経験があります。炎症性疾患などの病態や全身状態によって必要量の再設定を検討してみると良いと思います(朝倉先生)。


Q2.筋肉を増やすには、たんぱく質はどのくらい必要?
A2.高齢者の場合、20g/日まずは守ることから


体重の中でも筋肉は減りやすく、30代以降、年に1%ずつ生理的に減っていき、食事を半量にすると0.2%/日、寝たきりになると0.5%/日減少します。強い炎症があると1日に1kg筋肉が減ることも。絶食・安静で1週間に筋肉量が3分の2になることも知られています。筋肉量が減少すると筋力、持久力、瞬発力そしてバランス機能も落ちていき、生活力も低下。筋肉を増やすには運動と栄養ですが、若い人の場合は8g/日、高齢者の場合は20g/日を超えるたんぱく質を摂らなければなりません。筋肉を増やすのは難しいもの、まずは守ることに注力しましょう(佐々木先生)。


Q3.嚥下機能が低下している方には?
A3.えん下困難者用のゼリーを


飲み込みやすいよう食形態を調整する場合、加水するため常食よりエネルギー・栄養価が下がり、体重減少を招く可能性があると知っておきましょう。「ブイ・クレスCP10(シーピーテン)ゼリー ミックスフルーツ」は消費者庁から「えん下困難者用食品」という表示許可を受けており、誤嚥を防ぐとともに、栄養補給が可能です(佐々木先生)。  
1個80gあたりエネルギー110kcal、たんぱく質12gと少量で高カロリー。負担が少なく活用しやすいですね(保坂先生)。


Q4.褥瘡のある方には?
A4.褥瘡治癒促進の栄養素に注目


食事量の少ない方は、低栄養に伴うさまざまな障害を合併しており、例えば、皮膚疾患の一つである褥瘡を抱えた方も多いと思います。褥瘡治癒の基本も栄養から。たんぱく質、エネルギーだけではなく、コラーゲンペプチド、亜鉛、ビタミンCなどが強化されたブイ・クレスCP10(シーピーテン)ミックスフルーツは、私の経験した多発褥瘡の症例にはぴったりでした(朝倉先生)。


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症例報告


症例 1:褥瘡治癒・体重増加を目指した褥瘡多発患者へのブイ・クレスCP10(ドリンク)活用
(Five Star 訪問看護・栄養管理 Station 管理者/臨床栄養代謝専門療法士/NST専門療法士 Medical Nutritionist of PEN Leaders/Nurse Innovation株式会社 代表取締役 朝倉之基先生)


●患者プロフィール


90歳代 女性 体重約35kg(推定)
主病名:多発褥瘡
既往歴:心房細動、右小脳梗塞、アルツハイマー型認知症(JCSII-20)
栄養ルート:2020年5月頃から嚥下機能低下により胃瘻造設。嘔吐のため栄養剤の投与は900mLが限界。CVポート使用不可
全身状態:拘縮、筋緊張強く、摩擦・圧迫・発汗により湿潤が起こりやすい。


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症例 2:食事摂取量が不足した嚥下障害患者へのブイ・クレスCP10ゼリー活用
(訪問看護ステーションフレンズ 所長 保坂明美先生)


●患者プロフィール


79歳 女性 体重53㎏ 要介護2 サービス付き高齢者賃貸住宅に入居
主病名:膀胱がん。2016年、経尿道的膀胱腫瘍切除術・化学療法実施。
食事状態:食事はほぼ完食。
全身状態:バルンカテーテル挿入によりQOL低下。頻回の救急搬送の後、2019年、放射線療法実施、緩和医療の方向へ。


●訪問看護介入~ブイ・クレスCP10ゼリー使用後の経過


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東邦大学医療センター大森病院栄養治療センター
"鷲澤尚宏先生に聞く"


鷲澤先生.jpg
医学博士。東邦大学医学部臨床支援室教授。同医療センター大森病院栄養治療センター部長。
消化器外科、栄養治療という専門分野を通して、日本における栄養サポートチーム(NST)の普及に初期より尽力。
地域の医療・介護スタッフからも頼られる存在。


炎症を伴う病態には攻めの栄養治療を

多くの入院診療機関では患者の居場所はベッドとなります。生活スペースというよりは固定される場所であり、活動性は低下するのが当然といえる環境です。よほど意識して廃用性障害を起こさないよう治療を進め在宅療養へ移行しなければ、介護度が悪化するのは当然でしょう。佐々木先生がお示しの通り退院後に要介護度が+1.72悪化する事態は十分に起こり得ます。
誤嚥性肺炎と診断された場合、臥位安静が本当に必要なのか、それとも他動運動やマッサージを積極的に行い動かしながら治療していくのか、疾患や患者の状態を丁寧にアセスメントし決定する必要があります。
病態によっては、健常人の摂取量を基準として微調整するのではなく、攻めの治療計画が必要となります。居宅療養高齢者であれば入院期間も長くなる傾向にあり、褥瘡治療を要する場合もあるでしょう。そんな時は目的に併せ、コラーゲンペプチドやビタミン、ミネラルなど、特定の栄養素を強化した補助食品を積極的に使用しましょう。





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