問題解決する栄養療法⾷品

ニュートリション・ジャーナル

ここで学べること
病院・施設・在宅、医療者と患者。医療現場の「溝」を埋めるべく不定期発行中の情報誌。栄養療法の最先端をお届けします。

※このページは、医療介護従事者向け情報です。


増えるサ高住、食事の実態は?


近年、建築が急激に進んでいるサービス付き高齢者住宅(以下、サ高住)は、生活に不安を持つ一人暮らし高齢者の住まいの主流になるといわれている。一方、しばしば問題とされる高齢者の低栄養や嚥下障害への対応は、医療的ケアや看取りの問題も絡み、介護スタッフの不安や悩みの要因になることも多い。高齢者の楽しみともいえる「食事」を安全に提供するための取り組み実態を、調査結果を参考に探る


※調査主体:ニュートリー株式会社、協力:メディバンクス株式会社により、2017年10月~11月に、全国のサ高住を対象に行われた「食事サービスと栄養ケアに関する実態調査」。6500施設中185件からの回答を得た(回答率2.8%)。


56_ 0142_図7.jpg



高齢のため入居、加齢のため退去


2017年秋、全国のサ高住施設長を対象に「食事サービスと栄養ケアに関する実態調査」(以下、本調査)が行われた。サ高住の入居者は自立が中心といわれているが、医療依存度や要介護度の高い入所者の受け入れや看取り対応も行う施設が増えてきているためか、本調査の結果では、要介護度1~2が約42%、3~5が約33%と、思いのほか介護保険の対象者は多かった(図1)。
ここで注目したいのは、入居者の"退去理由"である。回答時から直近1年間の退去理由を尋ねると「死亡」、「持病の悪化」、「介護度進行」の順に多かった(図2)。持病の悪化や介護度進行が、加齢に伴うものであることは十分に予測できる。実際、サ高住からの退去後は「療養型医療施設」、「介護保健施設」へと移り住んでいた(図3)。


56_-0142_図1.jpg




56_ 0142_図2.jpg




56_ 0142_図3.jpg


飲み込み状況を重視した個別の食形態


本調査では回答施設の99%が「食事サービス」を提供しており、95%が「入居者の食事状況を観察している」と回答していた。入居者の嚥下機能低下に対応するため、食形態の個別調整の"必要性"があるという結果も出ている。利用者の摂食・嚥下機能に合わせ、「普通食」、「きざみ食・極きざみ食」、「ペースト食・ミキサー食」、「やわらか食」と食形態を個別に調整していた(図4・5)。食事中の観察ポイントは、「むせ・咳こみ」など飲み込みの状況を重視していた(図6)。


56_ 0142_図4.jpg




56_ 0142_図5.jpg




56_ 0142_図6.jpg


近年、加齢や脳血管疾患などによる嚥下障害について、マスメディアが警鐘を鳴らしていることもあるためか、窒息や誤嚥、さらには誤嚥性肺炎予防といったリスク回避の意識を介護スタッフらも持っているようだ。
誤嚥性肺炎(75歳以上の高齢者の肺炎の約7割が誤嚥性肺炎といわれている)に対しては、国や医師会が「口腔ケアの徹底」と「誤嚥しづらい食形態」の啓発活動を続けている。サ高住は生活の場であり、「食事」と「生活」は切り離すことができない。食事に関わる誤嚥を防ぐため、どの施設も食事サービスにひと手間を施し、食形態の個別対応を工夫していた。


4割以上の施設が 食形態に不安・疑問


専門職種の不在


しかし、4割以上の施設が「提供している食形態が入居者に適しているか、不安・疑問」と答えている(図7)。その背景には、入居者の摂食・嚥下機能と食形態のマッチングを判断できる専門職種が駐在していないことがあるだろう。施設スタッフの多くは介護職員であり、訪問スタッフの中に嚥下機能を観察する"言語聴覚士"や食形態を調整し指導する"管理栄養士"はそれぞれ1割程度しかいない。マッチングの根拠・判断基準を得られにくい状況だ。


56_ 0142_図7.jpg


訪問看護師"かくれ低栄養"の存在を認識


本紙vol.2で紹介したわたなべクリニックと提携し、サ高住を訪問する看護師の疋田節子さんにサ高住入居者についての印象を尋ねた。
「嚥下状態不良、食事量低下、体重減少などの症状が明らかではない"かくれ低栄養"も含め、低栄養状態の方は多い印象です。食事量の低下を招きやすい疾病(表1)はあるのですが、高齢者の多くは摂食・嚥下機能の低下による食事摂取量不足での低栄養が多く、それが見逃されていることも少なくありません」
訪問看護師の目にもまた、サ高住に多くの「摂食・嚥下機能低下の入居者」と「摂食・嚥下機能低下から低栄養に至る入居者」の存在が映っているようだ。



56_ 0142_表1.jpg




医療・介護連携で ファーストトリアージを


早期栄養介入のための情報収集


「サ高住では、『訪問医には話しづらい』と言われることがあります。そこを介護スタッフや訪問看護師が掬い上げ、入所者の気持ち、症状を十分把握して、いかに早く変化や異常 を見つけられるかが、摂食・嚥下機能低下による低栄養を食い止める鍵ではないでしょうか。訪問看護師には、訪問時に知り得た情報を的確に医師に伝えるファーストトリアージの力が必要です」と疋田看護師。  


画像5.jpg


疋田節子(ひきた・せつこ)
平成20年よりナチュラルケアグループ在宅支援診療所看護師としての勤務を経て、いま訪問看護ステーション(吹田市)看護師。「訪問看護師の重要な役割は、在宅療養支援チームのメンバー間の連携が機能するよう、必要な情報を提供し、多職種をつなげ、連携すること」と、退院時カンファレンスやサービス担当者会議には、積極的に参加している。



そのためには、訪問看護師自身のアセスメント能力と合わせ、入居者(患者)の平常時の状態を把握しておくために、介護スタッフからの情報提供を得やすい関係を構築する能力も必要だ。特に食事量や飲み込み状況に関する介護スタッフからの情報は、言語聴覚士や管理栄養士が介入する際にも重要な情報となる。訪問看護師であれ施設の介護スタッフであれ、いかに早く入居者の変化に気付き対応できるか、ということなのだ。
低栄養になると、筋肉量や筋力が減少し、ADLの低下、転倒、免疫機能低下などのリスクが高まり、適切な口腔ケアが行われないと容易に嚥下機能の低下も引き起こす。
疋田看護師曰く、「施設のスタッフの方には、普段は食事量をチェックし、摂食・嚥下機能低下のサイン(表2)が見られた時は連絡をいただくようお願いしています。併せて、普段の生活状況(睡眠状況、排便状況、うつ的な症状、嚥下の状況、嗜好・偏食の有無、家族やまわりの人との人間関係、生活環境の変化の有無など)の観察・確認も行ってもらい、食事量低下の原因になるような心当たりがないか、気付いたことを伝えてもらうようにしています」。 介護スタッフから訪問看護師へ共有される報告は、ファーストトリアージのきっかけになることもあり、重要だ。


56_ 0142_表2.jpg


できることの限界と今すべきこと


サ高住の食事サービスが委託給食会社によって行われる場合は、限られた契約金の中で運営されている。運営する施設スタッフも訪問する医療従事者も、入居者にとって最も適した食形態を提供し、栄養を充足させることを求めてはいる。しかし、個々の摂食・嚥下機能レベルに合わせた食形態の提供、低栄養予防のための介護食品や栄養補助食品の採用をすることは、マンパワー・手間・コストなどの負担が大きく、施設側だけで対応しきれないのが現実である。
また、施設では入居者との個人契約となるため、訪問診療のアプローチを受けていない入居者もおり、専門職による嚥下機能低下や隠れ低栄養発見の機会が得られない入居者も多く存在するであろう。
その解決策として、施設運営そのものの取り組みがある。例えば、「サ高住に入居者の嚥 下機能と食形態のマッチングを図る専門職種を置くこと」あるいは「外部の専門職種と連携すること」で、個々の入居者に適した食形態と嚥下機能の適正化を図ることが考えられる。入居者に対しても、「誤嚥・窒息に配慮した物性や食事としてのクオリティを向上させた個別の嚥下調整食およびその情報を提供すること」が必要であろう。
本調査で「低栄養」については8割弱が「知っている」と回答していたが、その解決策ともなる新しい介護食の名称「スマイルケア食」については、7割弱が「知らない」と回答し ていた。「摂食・嚥下機能と食形態のマッチング」という認識を入居者も介護スタッフも共有することで、高齢者の日常がより健やかで、最後まで食事を楽しめる生活のヒントになるのではないだろうか。





サ高住における訪問看護師のミッション
低栄養の発見とファーストトリアージ!


《症例》 91歳女性 高血圧症、シェーグレン症候群、神経因性膀胱

定期巡回随時対応型訪問看護で、月2回の定期訪問で健康管理を行っていた方です。
状態は安定しており特に問題なく経過していましたが、食事について尋ねてみると、『最近、ご飯をあんまり食べてないの。もともと食は細い方だけど、なんとなくしんどくてあんまり食べてないのよ』と話されました。
特に消化器症状や疼痛等も無く過ごされており、訪問診療の医師にはご飯を食べていないことは伝えていないとのこと。血液検査では、アルブミン値2.9g/dlと低下がみられたため、医師へ報告しました。たんぱく質強化タイプの栄養補助食品開始の指示があり、食事に取り入れることになりました。すると、『ご飯より美味しい。こんないいものがあるんだったらもっと早く言えば良かった』と、受け入れも良好。その後、1日2本摂取するようになると、徐々に他の食事量も増え、活気もみられるようになりました。 (疋田看護師:談)





在宅で活かせるミニ情報
よく耳にする"患者・家族のホンネ"


画像4.jpg


入居者の摂食嚥下機能に適した 栄養補助食品を選ぶには?!

サ高住の入居者の低栄養が心配なとき、「スマイルケア食」を入居者や家族に紹介してはいかがでしょう。栄養不足を対象とした青マーク、噛むことに問題がある方を対象とした黄マーク、飲み込みに問題がある方を対象とした赤マークに分類されていて、さらにそれぞれのレベルを数字で表わしています。食品に表示されたマークを見て、個人の状態、レベルに合った食品を選択できます。


飲み込みに問題がある入居者には、 スマイルケア食の「赤マーク」を目印に。

本調査でも食事中の観察ポイントとして重要視されていた「飲み込みの問題」には、スマイルケア食の赤マークの食品で対応できます。赤マークが表示される製品には、水分補給ゼリー、たんぱく質補給ゼリー、ビタミン・ミネラル補給ゼリーなどがあり、強化したい栄養素でも選べます。「スマイルケア食の選び方」のフローチャートを基に、専門職に相談の上、施設スタッフと連携し、患者の低栄養改善を図っていきましょう。


画像7.jpg


▶製品情報はこちら




東邦大学医療センター大森病院栄養治療センター
"鷲澤尚宏先生に聞く"


鷲澤先生.jpg鷲澤尚宏(わしざわ・なおひろ)
医学博士。東邦大学医学部臨床支援室教授。同医療センター大森病院栄養治療センター部長。消化器外科、栄養治療という専門分野を通して、日本における栄養サポートチーム(NST)の普及に初期より尽力。地域の医療・介護スタッフからも頼られる存在。


低栄養の「発見・予防」を アセスメントの両輪に

サービス付き高齢者住宅を対象とした今回の調査は極めて意義のあるもので、私たちに多くの情報を提供してくれました。老いと疾患が日常生活の重要課題になっている高齢者がその解決策にできるだけ近いところで暮らしたいと思うのは当然であり、核家族化の結果としてこのタイプの施設が受け皿となっているのはとてもわかりやすいと思います。
高齢者住まい法に基づいて、介護サービスの基準、入居時の金銭のやりとり等の基準が決められていますが、これが有効に運用されるには、サポーターの育成とシステムの簡素化・IT化が必須となります。医療現場では栄養アセスメントがかなり普及しましたので、低栄養発見のための「栄養状態のアセスメント」と低栄養に陥らないようにする「栄養方法のアセスメント」が両輪であることが広まっています。
サ高住では4割以上の施設が栄養方法としての食形態に不安を感じているようですが、スマイルケア食は安全性とわかりやすさが主な目的ですから、この考え方を普及させるための啓発ツールや便利なアプリなどが欲しいですね。そして、その実践には、個別対応を行うための人間愛が必須だと思います。





本記事へのご意見、ご感想、身近な情報をお寄せください
発行: メディバンクス株式会社 ニュートリション・ジャーナル編集部
〒151-0051東京都渋谷区千駄ヶ谷3-4-23-203 TEL: 03-6447-1180 Mail: info@medi-banx.com
56_0142


一覧に戻る