問題解決する栄養療法⾷品

ニュートリション・ジャーナル

ここで学べること
病院・施設・在宅、医療者と患者。医療現場の「溝」を埋めるべく不定期発行中の情報誌。栄養療法の最先端をお届けします。

※このページは、医療介護従事者向け情報です。


飢餓・炎症で栄養量不足 食べていても体重減少


近年、診療報酬・介護報酬改定時に〈栄養〉〈在宅〉への視点が加わり、地域一体型栄養サポートチームの取り組みが推奨されてきた。その実態を探るべく、訪問看護を利用している75歳以上の居宅療養高齢者を対象とした栄養ケアに関する調査を行った。巷ではフードロスが問題とされる「飽食の時代」だが、看護師が「食べている」と判断した患者のうち、"体重減少"と"るい痩"が多く見られた。背景には「食事の準備ができない」「提供量が少ない」などの食事環境による飢餓や、病気による炎症反応でエネルギー消費量が増加し「必要栄養量を満たしていない」という課題が考えられる。
在宅主治医から栄養管理に関する指示が得られないことで、管理栄養士が訪問栄養指導に介入しづらい現状があり、生活面のケアの一環として食事・排泄・清潔を担っている訪問看護師がそれを行うケースが多いことも、明らかになった。

居宅療養高齢者への栄養介入状況、栄養ケアの実態と課題把握から、「体重を減らさない」理想的な栄養管理を考える。


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※調査主体:ニュートリ―株式会社、協力:メディバンクス株式会社により、2022年8月25日~10月28日、全国の訪問看護ステーションを対象に行われた「栄養介入・栄養ケア実態調査」。281事業所からの回答を得た。


訪問看護を利用する75歳以上の6割が"痩せ"


今回の調査結果から、居宅療養高齢者の61%が痩せていることがわかった(図1)。食事や栄養に関する問題がある患者は半数以上に上り、看護師が「食べている」と判断した患者のうち、"体重減少"と"るい痩"が多く見られた。この背景には「食事の準備ができない」「提供量が少ない」などの食事環境の課題と、「だるさ」「息切れ」「体調不良」「発熱・痛み」など病気による炎症反応で、エネルギー消費量が増加している状況があると考えられる。
また看護師が「食べていない」と判断した患者は「認知機能に問題がある」「飲み込みにくい」「口腔環境が悪い(義歯の不具合・乾燥・不衛生)」などの問題を抱えていることがわかった。


さらに、調査対象者の85%が、栄養評価、栄養計算、製品紹介といった医療者による一連の栄養療法が未実施であった。この点から、居宅療養高齢者の多くが必要栄養量を満たしておらず、体重減少やるい痩などにつながっていることが示唆された。



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低栄養の早期発見に 「食べられない」や「痩せ」


訪問看護師が栄養療法食品を提案 継続使用で"体重増加"


居宅療養高齢者に多い「痩せ」は、「低栄養」の危険サインであり、早期発見が重要だ。医師が栄養に対する関心が薄く、知識が十分でないこと、管理栄養士が介入する機会が少ないことなどによって、訪問看護師が早期発見の役割を担っているケースは多い。
本調査では、栄養評価の実施率は58%、担い手は医師でも栄養士でもなく看護師であった(図2)。栄養評価ツールの使用は1.5%で、常に生活を把握している訪問看護師が「体重減少がある」「低体重傾向である」などの"痩せ"を確認し、また「摂食嚥下障害である」「食欲不振の訴えがある」など、食べていない状態をキャッチして低栄養の早期発見につなげている(図3)。
「低栄養」の対策としては、訪問看護師を中心とした医療者が、66%の患者に対して栄養療法食品を紹介していた。
さらに栄養療法食品の継続的な使用の結果として、「活気が出てきた」「活動量が増えた」などの活力向上や「体重が維持できた」「体重が増えた」などの体重の維持・増加、「安定して食事摂取できるようになった」「食欲が出てきた」などの食事への意欲向上の成果が見られたことは重要なアウトカムである。


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GLIM 〜低栄養診断基準〜


低栄養診断方法として注目されている国際標準のGLIM(グリム)基準では、「現症」(意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少)と「病因」(食事摂取量減少/消化吸収能低下、疾患による急性・慢性の炎症)から低栄養やその重症度を判定する。骨格筋は体を動かすだけでなく、エネルギー・たんぱく質を蓄える役割も持つため、食事量が減ったり炎症の悪化で消費エネルギーが増えたりして相対的にこれらが不足すると、骨格筋が分解されエネルギーに変えられる。筋肉量の減少、筋力の低下はフレイル(虚弱)やサルコペニア(筋肉減弱症)の要因となり、高齢者のADLやQOLの低下をもたらす。


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特別用途食品などの提案で 医療費負担の是正にも


"医療者の推奨"が 購入の決め手


本調査からは、86%の利用者が医療者から紹介された製品を一度は購入していることもわかった。また患者の74%がリピートして購入していた。
購入の決め手を確認したところ「選択肢として提示されたから」「医療者の推奨があったから」を挙げた群が、「味が好みであった」「購入がスムーズであった」を凌ぐ結果であった(図4)。
患者側の立場では、病態及び生活環境などの状況に配慮し、食品提案をしてくれると受け入れやすい。訪問看護師は「一度に食べられる量が少ない」「老々介護で食事の準備が負担である」などの事情も把握した上で、購入しやすい商品を提案をしていることが窺える。それらの配慮が看護師への信頼につながるのであろう。
臨機応変に、栄養療法を提案・実施するためには、さまざまな栄養療法食品を知っておく必要がある。


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経腸栄養剤だけでなく選択肢を広げた提案を


病院では食事療養費でまかなわれているため、機能性や味のバリエーションに富んだ栄養療法食品が広く活用されている。一方、在宅では経済的な事情で処方栄養剤が選択されるケースが多いというが、それは医療者が優先的に紹介している可能性が高いからではないか。本調査では、「医療費がかかる栄養剤」同様に、「医療現場で利用される栄養療法食品」も選択肢として提案していた。これは回答者が、栄養に関心が高い層であるためと推察されるが、患者に合った栄養療法を提案・実施するためには、医薬品として処方できる経腸栄養剤だけでは選択肢が不十分だ。味のバリエーションが多岐に渡る濃厚流動食、エビデンスが確立し国が許可する特別用途食品、少量で高栄養のゼリーなど選択肢を広げて提案することは、患者の栄養面においてはもちろん、無闇に医薬品へ流れる動きを是正し、医療費の適正化にも有効なのではないだろうか。


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高齢者の栄養ケアは「しっかり食べる」ことから


本調査の監修者で「年をとったら食べなさい」の提唱でも知られている佐々木淳先生(医療法人社団悠翔会理事長・診療部長)に、これからの居宅療養高齢者の栄養ケアにおいて看護師に求められる視点をうかがった。





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佐々木 淳先生
医療法人社団悠翔会 理事長・診療部長
1973年京都市生まれ。1998年筑波大学医学専門学群卒業後、三井記念病院・東京大学医学部を経て、
2006 年在宅療養支援診療所(MRC ビルクリニック)を開設。2008 年医療法人社団悠翔会に法人化し理事長就任、2010 年広域法人化。
高品質な在宅医療の提供を通じて、22 世紀型の新しい社会に最適化した仕組みづくりを目指し、積極的に取り組んでいる。




「痩せ」は低栄養の危険サイン


日々の訪問看護の中で心がけてほしいのは、低栄養の早期発見です。食事を食べられない方への意識は向きやすいですが、「食事を食べている」ということだけで安心していると、①必要な栄養量を充足できていない②たんぱく質の摂取量が足りないということを見落としがちです。
必要な栄養量は、個々の体格や活動量、抱えている疾患などによって異なります。特に体を動かしたり(負荷のかかるリハビリなど)炎症性疾患を抱えている場合は、通常の必要量より多くの栄養が消費されます。その過剰分を補えるよう、栄養計算の時には活動係数やストレス係数をかけて、適正な追加栄養量を導くようにしましょう。簡易に実施する計算式を覚えておくと役立ちます(図5)。
また、たんぱく質は体を動かしている筋肉を作っていますが、身体活動に必要なエネルギー源が枯渇すると、分解され栄養源となります。そのため筋肉量が減り筋力も低下し、転倒やそれに伴う骨折のリスクの上昇、栄養不足による免疫力の低下、褥瘡の発生などを引き起こします。
「痩せ(体重減少)」は栄養介入のきっかけとして重要なサインです。看護の眼でそのサインに気づき、原因を探り対応してほしいですね。


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訪問看護師ならではの 体重アップの提案を


以前に比べて体重が減って活気がないことに気づいたら、それ以上痩せないこと、体重を増やすことを目指しましょう。個々に異なる摂食量、既往症、るい痩や褥瘡の有無や程度も考慮して、どのくらいの期間をかけてどのくらい体重増加を目指すのかプランを立てます。元気なときと現在から目標を設定し、期間内に必要な摂取エネルギー量を算出します。手書きメモを提示しながら患者さんに説明することで、目標が視覚化・共有化され、納得・同意の上で栄養療法が実施しやすくなります(図6)。
訪問看護師の皆さんには、利用者さんの暮らしや好みを知っているという強みがあります。バランスよく栄養が摂れる製品を紹介する際、経済的な面から保険収載の医薬品を紹介することもあるでしょうし、本人の好みから種類の多い一般食品を提示することもあるでしょう。最近では、QOL低下の要因ともなる褥瘡の悪化を防ぎ、治癒するための特別用途食品も登場していますので、新たな視点として関心を持っていただきたいと思います。
体重が減り栄養量の追加が必要な方ほど、摂食量が少なかったり嚥下機能に問題を抱えていたりします。そんな時、ご本人が無理なく確実に栄養摂取できる製品の情報を知っておくことは大切です。身近な医療者であり相談相手でもある訪問看護師の皆さんには、居宅療養高齢者の暮らしを支えるチームの仲間として、大いに期待しています。


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東邦大学医療センター大森病院栄養治療センター
"鷲澤尚宏先生に聞く"


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鷲澤尚宏(わしざわ・なおひろ)
医学博士。東邦大学医学部臨床支援室教授。同医療センター大森病院栄養治療センター部長。
消化器外科、栄養治療という専門分野を通して、日本における栄養サポートチーム(NST)の普及に初期より尽力。
地域の医療・介護スタッフからも頼られる存在。


訪問看護師ならではの主観的な栄養アセスメント

訪問管理栄養士がどのように現場で活動できるかが課題となっている現状では、訪問看護師の活躍が大切です。私が以前から提唱している栄養アセスメントの2つの柱(栄養状態のアセスメントと栄養摂取方法のアセスメント)という視点から、訪問看護師がキャッチしている主観的情報を整頓してみましょう。
「食べられない」「食べる量が少ない」「活気がない」は精神状態や筋力等の栄養状態も示唆していますが、栄養摂取方法の現状も表しています。つまり、「歯が無い」「あごの力や舌の動かし方に問題がある」「飲み込めない」などを評価している可能性があるのです。そして、「以前より痩せてきた」は推移を表す、%UBW(対健常時体重比)なのです。
体重増加に欠かせないたんぱく質の有効利用には十分なエネルギー源が必要です。看護師ならではのアセスメントに基づき、エネルギー量やたんぱく質配合量も考慮し適切な栄養療法食品や栄養剤を紹介している看護師の頑張りに期待したいですね。





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発行: メディバンクス株式会社 ニュートリション・ジャーナル編集部
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