STOP the 体重減少!
【5】
痩せないための方法を知ろう
「痩せない」ということは、体に変化があったときに乗り越えるための予備力を蓄えておくということ。「痩せ」や「痩せ予防」についての情報をもとに、痩せない方法を知っておきましょう。
監修 佐々木 淳(医療法人社団悠翔会 理事長・診療部長)
Q23.「痩せ」に気づいたら、どうすればいいですか?
本人の様子や変化が見られた点などを医療者に伝え、食事の見直しなどに取り組みましょう。
例えば...
- 食事:食べる量が減った、回数が減った、さっぱりしたものばかり食べるようになった。
- 体調:体温が高い、顔色が悪い、活気がない、意識が薄弱、痛みを訴える、排便状況が悪い。
- 口やのどの状態:汚れが目立つ、乾燥がみられる、むせ、咳き込みがみられる。
- 環境:暮らしの場が変わったなど。
医療者に「痩せ」を相談する際、思い当たる変化があれば併せて伝え、適切な指示をしてもらうことも大切です。
Q24.体重を維持するために1日に必要なエネルギー量は、どうやって計算するのですか?
基礎代謝量×活動係数×ストレス係数で求めることができます。
基礎代謝量とは早朝空腹時に快適な室内等における安静時のエネルギー消費量のことです。一人ひとり活動量や病気の症状によるエネルギー消費量の違いがあるので、それを考慮し、医療者は活動係数とストレス係数をかけて計算します。寝たきりで動けない高齢者は、歩ける高齢者よりエネルギーは少なくて良いように思いがちですが、寝たきりの高齢者でも、褥瘡(床ずれ)や感染症がある場合には、歩行可能な高齢者より1日に必要なエネルギー量が多くなることもあります。
Q25.体重1㎏を1ヵ月で増やすには、どのくらいの栄養が必要なのですか?
諸説ありますが、高齢者が体重1㎏を1ヵ月で増やすには基礎代謝量に加え、8,800~22,600kcalが必要ともいわれています。
7,200kcal不足すると体重が1kg減るのに対し、体重1kgを増やすために必要な追加エネルギー量は、それよりも1,600kcal 以上多い8,800kcalとなります(個人差があります)。リハビリテーションを行っている方は運動でエネルギーを消費しているため、より多くのエネルギーを必要とし、約9,600 kcalも必要といわれています。このことからも、体重は減りやすく増やしにくいことがわかります。
Q26.減った分だけでも体重を増やすにはどうしたらいいですか?
1㎏を増やすために必要な追加エネルギーは8,800kcalです(個人差があります)。1ヵ月で体重を戻す目標を立てたら、約30日で割ると、1日あたり追加すべきエネルギー量が計算できます。
例えば...
減った分の体重1㎏を1ヵ月かけて戻したい場合
- 1㎏増やすために必要な追加エネルギーは8,800kcal(個人差があります)。
- 戻すまでの目標期間は1カ月(約30日)。
- 8,800kcal÷30日=約290 kcal/日。
つまり、毎日の食事に、約290kcalのエネルギーをプラスして摂取すると減った分の体重1㎏を取り戻せます。食事量が少なくなりがちな高齢者の場合、多くのエネルギーを食事で摂ることは容易なことではありません。おやつなどの他、少量でも栄養価が高い栄養補助食品などもうまく活用するとよいでしょう。
Q27.必要栄養量を満たしているのに体重が減っていく場合、どんなことが考えられますか?
体に入ってくるエネルギー量よりも消費されるエネルギー量の方が多い状態が考えられます。
例えば、体温が1度上がるごとに200kcalのエネルギーが消費されるため、発熱した場合は通常よりも多くのエネルギーが必要になります。また、傷やヤケド、感染症などがあると多くのエネルギーが必要になります。何か病気が潜んでいる場合もあります。本人の体調や表情に変わりがないか注意して観察し、かかりつけ医の診察を受けて原因を見つけることが先決です。
Q28.高齢者が食べられない理由に、口の中やのどの状態は関係がありますか?
関係があります。高齢者は、口腔環境や飲み込む機能にさまざまな問題を抱えており、食事が食べられない要因になっています。
年齢とともに、口やのどの筋肉も衰え、噛む力や飲み込む力が弱くなります。最近では、「オーラルフレイル」という言葉も聞かれるようになりました。痛みや汚れがあったり口の中が乾燥していたりすると、うまく食べられないことがあります。さらに、高齢になるほど飲み込む機能も低下して、むせたり誤嚥したりすることも多くなりがちです。口腔環境の悪化や飲み込み機能の低下は、食事が満足に食べられない状況に直結します。口の中の健康を維持することや飲み込みに必要な筋肉のトレーニングをすることは、高齢者の食生活を守るうえで重要な役割を果たします。
Q29.嚥下食を食べる人に、低栄養が多いのはなぜですか?
食材に水分を加えてなめらかなペースト状にする必要があり、水分を加えた分だけ栄養価が低くなるからです。
飲み込みがうまくできない場合、嚥下食が提供されます。嚥下食にする際、食材に水分を加えてなめらかなペースト状にする必要がありますが、水分を加えた分だけ栄養価が下がってしまいます。最近では、水の代わりに栄養調整食品を加え、栄養価を高めたペースト食を提供する医療機関も増えてきています。
Q30.入院している高齢者の痩せ対策に取り組んでいる病院はありますか?
多くの病院が、栄養サポートチーム(NST)や日々のカンファレンスで痩せないための栄養管理に取り組んでいます。
ある調査※で、痩せ対策に取り組んでいる病院施設は60.8%という結果でした。栄養状態の悪い入院患者を見つけだし、栄養状態を改善するために多職種がそれぞれの専門性を持ち寄ってチームで取り組む栄養療法という概念が、国内外で普及しています。個々の患者ごとに、必要な栄養量や水分量を算出し、食事、輸液、経管栄養などによって栄養状態の改善に努めています。
※ニュートリション・ジャーナル主催「高齢者の"体重減少"を止める食支援 最新トピックスと臨床で役立つ現場のQ&A」セミナー 管理栄養士・看護師・医師・歯科医師らを対象とした参加者アンケート(n=10,007
Q31.絶食と入院期間には関係があるのですか?
密接に関係しています。絶食は体に大きなダメージを与えるため、入院期間が長くなる傾向があります。
入院後、早めに経口摂取(口から食べること)を始めることで、栄養を吸収し、細菌やウイルスなどを排除するといった腸管の機能が維持されます。一方、絶食期間が長く続き点滴など静脈栄養で補っている方は、腸管が使われないために免疫機能が低下することで入院期間が長引く可能性があります。食事の再開率も低くなり、さまざまな悪影響が身体に及びます。早期の経口摂取が免疫力を活性化し、入院期間を短縮する要因にもなるため、消化管機能に問題がなければ早めに経口摂取を始めることが重要です。
Q32.退院後の痩せ対策は、いつ頃から始めたらいいのですか?
入院前の本来の状態への回復を目指し、退院直後の2週間は積極的な対策を講じることが推奨されています。
入院した高齢者は、入院前よりも身体のさまざまな機能が低下した状態で自宅に戻ります。たとえば筋肉量の減少にともなう運動機能や口腔機能の低下、脱水や低栄養が起こり得ます。医療者の力を借りながら、入院前の状態に近づけるような痩せ対策、つまり必要エネルギーを満たす食事とそれを食べられる状態を保つ工夫を、いち早く始めることが重要です。
【1】高齢者の体の特徴を知ろう
【2】高齢者の痩せの原因を知ろう
【3】高齢者の痩せのリスクを知ろう
【4】痩せ(低栄養)の判断基準を知ろう
【5】 痩せないための方法を知ろう
【6】痩せないための食事をしよう