読む介護飯(かいごはん)ラジオ
専門家が答える読む介護飯(かいごはん)ラジオ 第7回
制限食の落とし穴
※本記事はPodcast番組「介護飯ラジオ」第7回のWEBページ版です。
【介護飯ラジオとは】「専門家が答える介護飯(かいごはん)ラジオ」は、「高齢者の痩せ対策委員会」がお届けするPodcast番組です。食支援の専門家をゲストにお招きし、リスナーから寄せられた「食事」や「痩せ」に関するお悩みに回答、明日から使える実践的な解決策やヒントをお伝えします。「Podcastでの配信内容を文字で読みたい」「気になったエピソードを振り返りたい」という方のために、こちらのWEBページ版「読む介護飯ラジオ」をご用意しました。
■パーソナリティ紹介
岡崎佳子(ナースマガジン編集長)
父はレントゲンの設計士、母は看護師という両親のもとで育つも医療・看護の道には進まず。転職を繰り返すも、常に扱うテーマが栄養・食事という不思議な巡り合わせ。両親を在宅で看取るという体験を経てたどり着いたのは、看護情報誌「ナースマガジン」編集の仕事。取り扱う多様なテーマに四苦八苦しながら、気がつけば前期高齢者。滑舌が悪くならぬよう、口形体操が日々の日課。
■ゲスト紹介
朝倉之基(FiveStar訪問看護・栄養管理Station管理者/看護師)
患者宅を訪問しながら必要な医療・介護を提供できる仕組みづくりのために、東京都町田市で訪問看護ステーションを立ち上げ、経営している。栄養管理にも積極的に取り組んでおり、在宅におけるさまざまな悩み事、課題にも対応。患者とその家族だけでなく、一緒に働くスタッフからも絶大な信頼を得ており、セミナー講師としても活躍中。
高齢者の食事制限、その裏にあるリスクとは?
岡崎
今回は「制限食の落とし穴」というテーマでお送りします。糖分、塩分、たんぱく質、脂質などは体を作るために必要ですが、生活習慣病と診断されると、悪化を防ぐために制限されることがありますよね。でも、それを真面目に守り続けて食べたいものを我慢しているうちに食欲がなくなり、エネルギー不足になっている高齢者が多いそうです。そうした実態も朝倉先生から教えていただきましょう。
78歳の母についての相談です。若い頃は中肉中背でよく動く人でしたが、健康診断で慢性腎臓病と高血圧の診断を受け、たんぱく質や塩分の制限を指導されました。きっちりとした性格で忠実に守っていましたが、この1年くらいで体重が5kgも減少しています。病気を悪化させないための制限とはわかっているのですが、今までの食事に比べて味が物足りないらしく、食べる量も減っているのです。
先日、テレビ番組で「年をとったら筋肉が減って体重減少を起こしているほうが問題なので食事制限を緩めて食べていい」と言っているお医者さんがいました。母には持病があっても穏やかに楽しく長生きしてもらいたいのです。食べたいものを食べさせて良いでしょうか?その際、注意することがありましたら教えてください。
岡崎
朝倉先生が訪問されている利用者さんのあいだでもこうした問題は多いのではないかと思いますが、いかがでしょうか?
朝倉
本当に多いですね。慢性腎臓病と診断された方とそうでない方でかなり話が変わってくるのですが、高齢者になると腎機能が落ちてしまうので、慢性腎臓病という病名がつかなくても、それに近しい状態になってしまうことがあります。これは加齢に伴うものなので仕方がありません。じゃあ高齢者の人はみんな制限が必要なのかっていう話になるんですけれども......。
慢性腎臓病の問題は、腎臓に負担をかけ続けることによって正常に機能しなくなる点です。その結果、透析治療が必要になることがあります。これを避けるために、先ほどから出ています、たんぱく質や塩分などの制限をして腎臓を保護します。
しかし、この制限の内容は非常に難しい問題でして、例えば、たんぱく質は筋肉や骨の元になりますので、制限をかけることで体の機能が低下するおそれがあります。食事制限が長期間にわたると、筋力が衰えて動きが悪くなったり、骨が折れやすくなったりします。腎臓は制限により透析を避けられるレベルに保たれるものの、状態自体は良くないままということになるわけです。
このような状況で、患者さんが幸せに暮らすとはどういうことなのか考えなければいけません。きちんと制限をして腎臓を守り切ったけど車椅子で生活することになってしまった......これは本当に"幸せ"なのでしょうか。こうした選択肢を天秤にかけながら、最善ではないにしても、その人に合った食生活を考える必要があると思います。
岡崎
最善ではなく最適ということですかね。
朝倉
そうですね。「できれば元気に動きたい」という希望をもつ人にとって、たんぱく質の制限は、体の原資となる重要な栄養素を制限してしまうような諸刃の剣ともいえることです。
たんぱく質といっても実は結構幅広くて、腎臓への負担が少ないものも存在します。それらを効率的に摂って、きちんと運動することが大切です。そもそもたんぱく質は摂るだけではなく、体を動かして消費することで筋肉になるので、摂取した分をしっかりと使えば、腎臓への負担はそこまで大きくならないんですね。どうしても数値で「たんぱく質は1日何gまで」と出されてしまうと、それに従わざるを得ないのでしょうが、どこまでの制限が適切かについては、まだ答えが出ていないのが現状です。
岡崎
そうなんですね。腎臓に負担をかけないたんぱく質もあるというのは私も知らなかったのですが、具体的にどのようなものですか?
朝倉
正確にはたんぱく質を構成するアミノ酸なんですが、BCAAという分岐鎖アミノ酸。
岡崎
そうしたものが腎臓にあまり負担をかけずに、たんぱく質としての役割を果たしてくれるんですね。
朝倉
そうですね。きちんと筋肉や骨に代謝されるたんぱく質(アミノ酸)です。実はそういった薬もあるのですが、使用できる疾患が限られていて、例えば肝不全などに対して処方されることが一般的です。それだけでどこまでできるかというのは別問題として、たんぱく質には様々な種類があるので、どのたんぱく質を摂るか、その使い方を一歩踏み込んで考える必要があると思います。
岡崎
たんぱく質って一括りにしないほうが良いということですね。
運動によってたんぱく質が代謝されて筋肉になる。そうなると腎臓への負担もそんなにかからないという考え方で良いのでしょうか?
朝倉
そうです。摂取した分がそのまま負荷になるわけではなく、それをきちんと代謝できれば腎臓への負荷は軽くなります。もちろん負荷がないとは言えないんですけれど。
岡崎
だから「併せて運動療法も」というのはそういうことなんですね。
朝倉
そうですね、それがやはり重要かなと思います。
ポイント1
高齢者の食事制限には、筋力低下と栄養不足のリスクも......
何が"幸せ"かを考え、その人に合った対応をすることが大切!
制限を意識しすぎていませんか?
健康を守りながら食事を楽しむためのヒント
岡崎
この方は78歳ということですが、一般的には制限よりもエネルギーを摂ったほうが良いと言えるものなんでしょうか?腎臓機能の悪くなり方というのは、早いとか遅いとか......どんな感じなのですか?
朝倉
78という年齢が、はたして今の世の中で本当に高齢者というカテゴリーに入るのかと言うと、75歳を超えているから後期高齢者の枠組みには入るのですが......。
78歳が高齢かどうかという点は置いておいて、例えば歩けるとか、自分で買い物に行けるとか、この方がどういう生活をしているのかというところから考えなければいけません。できるだけ今のADL(日常生活動作)を低下させない、日常生活の行動範囲を狭めないといった点を考慮する必要があります。そういった意味で筋力を維持するために、たんぱく質の摂取は非常に重要な要素のひとつだと思います。
また、ナトリウムやカリウム、リンの制限について指導を受けて、知識を持っていたとしても、それをどこまで実践するかというのはすごく難しい問題だと思います。それを遵守しようとして「調理が大変」とか「食べるのが大変」となって、体重が落ちてしまうと、いろいろな臓器にも負担がかかってしまいます。心臓を例に挙げると、「心不全患者では、体重が多い人が、痩せている人よりも予後が良かった」というデータが出ているんですね。これは、ほぼどの臓器にも同じことが言えるだろうと考えられています。調子が悪くなったときの予備能力が全く違うというわけです。なので、体重は落とさないに限りますね。やっぱりどんな生活ができるかというのはすごく大事かなと思います。
岡崎
なるほど。おばあちゃんたちが「太っていると膝に体重がかかったり、心臓に負荷がかかるから年をとったら痩せたほうが良い」と言って、食事は少しつまむ程度だった記憶があるのですが、そうではなかったんですね。
朝倉
病気に関して言えば、余力があったほうが明らかに有利であると思います。また、膝への負荷は、筋肉が落ちるから起こるんですね。「体重を減らさない」というのは、太りなさいということではなくて、筋肉を維持しなさいということなんです。
岡崎
そこは勘違いしがちなところですね。筋肉がついていないような太り方はあまりよろしくないということなんですね。
朝倉
そうなんです。最近、筋肉減少を意味する「サルコペニア」という言葉をよく聞きますが、サルコペニア肥満も増えてきています。食べてはいるけど、動かないから筋力はつかないし、落ちる一方だけど体重は増えている......なんていう人も多くなっていますので、体重"だけ"を見てはいけません。「筋力を伴った体重増加」というのが、我々が取り組んでいかなければいけない課題のひとつだと思います。
岡崎
その辺はとても大事なところですね。制限を緩めるとき、病状に影響しないような食べ方は他にも何かありますか?
朝倉
制限を意識しすぎるよりは、「食事を楽しむこと」にコミットすることが重要なので、エネルギーや栄養の話はここまでにしましょう。自分の好きなもの、例えば鰻が食べたいときに「今日は鰻を食べちゃおう。でも、その分ちゃんと運動しよう」とか、「塩分を摂りすぎちゃったから、翌日は少し控えよう」というようにバランスをとれば良いんです。どうしても1日何gという計算になってしまうと、どうしてもそこに目が行きがちですが、食事は楽しいものという意識を大事にしていかないと、どんどん痩せてしまいます。
岡崎
つい数字に意識が行きがちですよね、人間って。今日摂りすぎたと思ったら翌日控えるとか、そういうバランス感覚が大事なんですね。
朝倉
そうですね。食事だけでいろいろやろうとすると、中に入っている栄養成分が見えなくて難しいので、栄養補助食品なども使うと良いですよ。栄養補助食品は栄養成分が表示されていますので、表示を見ながら「自分はこれくらいあれば大丈夫」という感じで不足部分を補うことができます。あとは、もう本当に「食事は楽しいもの、楽しむもの」としていれば、痩せは防げるのかなと思っています。
岡崎
ありがとうございます。これまでも「食事は楽しむもの」というお話がたくさん出てきていると思うので、まずはそれをキーワードにしていきたいですね。
朝倉
そうです。おいしくないと食べた気がしないので。
岡崎
1人暮らしの方にとっては、孤食が問題になってくるかと思います。たとえ家族と暮らしていても、お子さん夫婦は仕事があるから日中は自分1人。そうなると食事を用意してもらっていても「なんか1人だと食べたくないな」「食欲が湧かないな」というような話を耳にするんですが、そういうときの工夫って何かありますか?
朝倉
孤食は社会問題になっていて、コロナ禍では特に取り沙汰されていました。「簡単に済ませればいいや」と言って、おにぎりやパンなど、簡単に食べられるもので食事を済ませる高齢者が増えたみたいです。実際に、コロナ禍で利用者さんに何を食べているか聞くと、「朝は軽いもの、パンを食べています」「おにぎりを握ってちょっと食べています」って炭水化物ばかりだったんですよ。孤食がもたらす一番の悪影響は、誰かと食べる必要がないために簡単なもので済ませて、その結果、炭水化物中心の食生活になってしまうことです。
1人ではなく複数人で食べるメリットは、いろいろなものを食べられることだと思っています。例えば中華料理だと、1人で食べたら1種類しか食べられないけど、みんなで食べたらたくさんの料理を楽しめますよね。
簡単なもので済ませることが続くと、炭水化物しか摂っていないという状態になってしまうので、栄養補助食品を1つ食べて、おにぎり1個分のエネルギーを摂るほうが実はよかったりします。簡単ですし。さぼりたいのであれば、そういうふうにさぼったほうが良いのかなと思います。
岡崎
バランスの良い手抜きということですね。
一般の方が目にすることはあまりないと思いますが、疾患のガイドラインの「食事制限をして悪化を防ごう」という治療方針が、高齢者に関しては最近変わってきていると聞きました。実際そうなんですか?
朝倉
炭水化物の制限などは、以前よりも緩和する動きになっています。心不全においては、ナトリウムの摂取量を減らすのではなくて、出す量を増やせば良いのではないかという考え方も生まれてきているくらいなんです。制限なく食べて体を作ることのほうが大事になってきている風潮がありますね。
ただ、ガイドラインや治療はあくまで治療目線で、生活目線ではないということがポイントでして、必ずやったほうが良いとわかっていてもできない人たちに何ができるのかということを個別に考えなければいけないかなと思っています。
岡崎
だからこそ、先生方みたいな栄養に強い専門家が一緒に考えてくれると、家族にとっては心強いなと思いますね。
朝倉
すごく頑張って独学で勉強される方もいて、情報はインターネットなどで簡単に手に入りますが、それが良いか悪いか判断できる能力がないとなかなかうまく使えないんですよね。
我々が100%正しいというわけではありませんが、「少なくともこれはだめ」という情報も見かけますから、やはり専門家に相談するのは重要だと思います。
岡崎
試してみるときに「これは合ってますか?」「この量は大丈夫ですか?」と専門家に聞いてみて、取り入れてほしいということですかね。
朝倉
ただ、専門家と言っても「その人」の専門家ではないので、その人を診てもらったうえで意見を聞くということが大事です。1回ちょっと話したくらいでは教科書的な答えしか出せないんですよ。その人に合っているかどうかというところまで見ることが、本当の栄養管理には必要かなと思います。
岡崎
日常的なその方の状態とか、どのくらいご飯を食べているのかとか、持病とかそういったことを全部把握してもらったうえで相談するのが一番良いんですね。
朝倉
それがベストですね。
岡崎
訪問看護が必要な方は、訪問サービスを利用して、日頃から自分たちの調子を見てもらっておくことが大事になるわけですね。
朝倉
そうですね。私たち看護師は、利用者さんや患者さんと接する機会が多いので、ご本人の情報をもって、医師や管理栄養士、薬剤師と「この人はこういう方で、こういう状況です。今の状況で正しいと思われることは○○ですが、この人にとってどれが一番良いでしょうか?」というディスカッションを常に繰り返します。これも看護師の重要な役割かなと思っています。
ポイント2
食事制限を意識しすぎず「食を楽しむ」ことが重要!
パンやおにぎりばかり食べている人は、栄養補助食品を活用しよう!
みんなでともに考える食事ケア
岡崎
実際に先生が利用者さんを訪問されたときのエピソードなどがありましたらお聞かせください。
朝倉
今回のテーマは制限食なので、私たちの施設に多い心不全のケースについてお話します。心不全では、水分の摂取を制限されることがあり、この場合には高濃度のものでしっかりとエネルギーを摂るのですが、気がつくと脱水になっていることもあるんですね。この脱水が諸悪の根源で、脱水に陥ると一気に体調を崩してしまうというケースも経験しました。
制限中でもおいしいものを食べながらうまく乗り越えていくことが大事なので、高濃度であれば良いということではなく、本人が続けられるものを選ぶことが重要です。いろいろなものを試すんですが、濃度が高いとおいしくないことが多いんですね。そこがひとつの課題でもあるんですが、必要なエネルギーとたんぱく質をきちんと摂るという意味ではブイ・クレスCP10がおすすめです。とてもおいしいですね。たんぱく質も多く含まれていますので、しっかりたんぱく質を摂って運動すると良いと思います。
岡崎
栄養や運動は全部つながっているんだなって改めて思いますね。
「看護師は一番患者さんと接する機会が多いから、いろいろな情報を知っている」みたいに受け止められていますが、看護師、管理栄養士、ホームヘルパー、かかりつけの医師などが全員で、ご家族のことも含めて患者さんについて考えるために地域で活動されているというお話も聞きます。具体的にどういった動きが主流なんですか?
朝倉
介護保険の利用者に関しては、サービス担当者会議で情報共有をしますが、顔を合わせるのが大変なので、いろいろなツールを使って取り組み始めている地域もあるかと思います。
岡崎
情報共有のやり取りのなかで、患者さんやご家族もアクセスできるシステムがあるそうですが......?
朝倉
あるにはあるんですが、あまり実用されていません。カルテの開示というのがありますから、医療情報を出すことは構わないのですが、タイムリーに医療情報が見られることによる混乱や、専門家でない者が見たときの誤解は避けなければいけないかなと思います。難しい言葉で書いてあったりしますから。
また、数字って上がると良いイメージがありますが、例えば腎臓の数値の場合、下がったら喜ばなきゃいけないのに、「数値が下がったということは悪いことなんですか?!」となってしまうと困りますよね。なんでもかんでも開示すれば良いというわけではないんです。そこに解釈を伴わせないと混乱を招きますから、どこまで開示するかは考えなきゃいけないかなと思います。
岡崎
やっぱり一方向だけになると難しいですよね。
朝倉
そうですね。文字や画像だけで情報開示が成り立つかというと、利用者さんやご家族など、情報を受ける側の準備はまだできてないのかなという気はします。
岡崎
社会のシステムを整えたり、自宅に訪問できる管理栄養士を増やしたりする必要があるんですかね。患者さん側のポイントとしては、情報を正しく収集すること、素人判断で解釈しないことなんですね。
朝倉
得られる情報は一般的なことなので、情報がその人に合っているかを誰がどこで判断するのかということだけはきちんと考えてほしいです。
岡崎
一般的な知識として持っておくことはいいけれども、そうした情報がすべて自分や家族に当てはまるわけではないと。ここ大事ですね。
今回のまとめ
高齢者の食事は、制限にとらわれないことが重要!
自分に合った食生活でQOLを向上させよう

Spotify、Apple Podcast、Amazon Music、YouTubeで毎月10日、20日、30日に音声番組として配信中。音声で楽しみたい方はぜひお聴きください。
「専門家が答える介護飯ラジオ」はこちら