読む介護飯(かいごはん)ラジオ
専門家が答える読む介護飯(かいごはん)ラジオ 第8回
食べたいのに食べられない
※本記事はPodcast番組「介護飯ラジオ」第8回のWEBページ版です。
【介護飯ラジオとは】「専門家が答える介護飯(かいごはん)ラジオ」は、「高齢者の痩せ対策委員会」がお届けするPodcast番組です。食支援の専門家をゲストにお招きし、リスナーから寄せられた「食事」や「痩せ」に関するお悩みに回答、明日から使える実践的な解決策やヒントをお伝えします。「Podcastでの配信内容を文字で読みたい」「気になったエピソードを振り返りたい」という方のために、こちらのWEBページ版「読む介護飯ラジオ」をご用意しました。
■パーソナリティ紹介
岡崎佳子(ナースマガジン編集長)
父はレントゲンの設計士、母は看護師という両親のもとで育つも医療・看護の道には進まず。転職を繰り返すも、常に扱うテーマが栄養・食事という不思議な巡り合わせ。両親を在宅で看取るという体験を経てたどり着いたのは、看護情報誌「ナースマガジン」編集の仕事。取り扱う多様なテーマに四苦八苦しながら、気がつけば前期高齢者。滑舌が悪くならぬよう、口形体操が日々の日課。
■ゲスト紹介
朝倉之基(FiveStar訪問看護・栄養管理Station管理者/看護師)
患者宅を訪問しながら必要な医療・介護を提供できる仕組みづくりのために、東京都町田市で訪問看護ステーションを立ち上げ、経営している。栄養管理にも積極的に取り組んでおり、在宅におけるさまざまな悩み事、課題にも対応。患者とその家族だけでなく、一緒に働くスタッフからも絶大な信頼を得ており、セミナー講師としても活躍中。
誤嚥が怖い......安全に食事を楽しむには?
岡崎
今回のテーマは「食べたいのに食べられない」。飲み込む機能(嚥下機能)に問題があって思うように食べられないという切実なご相談をいただいています。
誤嚥(ごえん)性肺炎で入院し、嚥下機能の低下を診断された75歳の夫。本人も私たち家族も在宅療養を希望しているので、退院後は訪問看護を利用して家で過ごしています。
退院後も飲み込みがうまくいかなくなってきて、本人が食べたいものに限って飲み込みにくいものが多くなってきました。誤嚥しないように、水分にはとろみをつけて一口ずつスプーンで飲ませたり、口の中でバラバラになりそうな肉や野菜はじっくり煮てやわらかくして、ミキサーにかけてムース食にするなど、食事を毎食用意する私の負担も大きく、夫が食べられるものが少なくなっています。
日に日に元気がなくなって痩せていき、先日布団をめくって足のマッサージをしたらあまりの細さにびっくりしました。たまに、「もう死んでもいいから鰻が食べたい」などわがままを言って私を困らせています。誤嚥する以上は、もう好きなものを食べられないまま痩せていくのでしょうか?
岡崎
これはかなり深刻ですが、どこから手をつけたらよいでしょうか?
朝倉
こうした症例、実は結構ありまして......。誤嚥性肺炎で入院すると、今後どのような食べ方をしていくのかということが大きな問題になります。退院するときに、食事の形態などについて指示・指導が入るとは思いますが、介入せず放っておくとうまくいきません。
我々が介入するときに一番大事にしていることは、誤嚥の仕方です。要するに、物を食べたときに咳をするのか、むせるのか。病院においてはむせたら終わりですが、在宅ではむせたらチャンスだと思っています。それは、「体外に異物を吐き出す能力があるから、食べることに挑戦できる」と考えられるためです。
安全に物事を進めることはもちろん大事ですが、ある程度のリスクも承知のうえで食べなければ次のステップに進めないので、むせて異物を吐き出せる方に関しては、かなり積極的にさまざまな介入の選択肢を提示できると思います。
お便りの男性の場合、誤嚥をするということですが、食事でむせるのかどうかということが情報の一つとして明らかになると介入方法は変わってきます。今回は「むせがある」と仮定した場合のお話をしようと思います。
食べ物が気道に入ったときに外に吐き出す機能は、みんな備えているんですが、その機能がどんどん低下してしまうと大きな問題になります。 そこで、異物を吐きだすために咳嗽(がいそう)の練習をしてもらい、異物をできるだけ自力で取り除けるようにします。そうすると変なところに異物が入っても自分で出すことができるので、いろんな挑戦ができるわけですね。もちろん、気道をふさぐような固形物を一気に入れるわけにはいかないので、喉元を通るときにはほぼ泥状になっているようなイメージです。 この方も同様に、我々が介入する場合であれば、咳嗽力をきちんと確保したうえで、ちょっとずつ食べられる方向にさまざまな訓練を重ねていくのではないかなと感じました。
岡崎
咳嗽というのは咳払いのことですね。
朝倉
そうです。私たちも慌てて食べると変なところに入ってむせたりしますよね。そうした行動を自発的に起こして、異物を外に出す練習をするのは非常に重要です。そうすることで首周りの筋肉が鍛えられ、嚥下機能の改善にもつながるので、自分で異物を外に出す能力を少しでも維持・向上させることは、この先、食べられるものを増やすことにつながるのではないかと考えています。
岡崎
つまり、この方が鰻を食べられるようになるためには、まず「咳払い」をトレーニングとしてやってみましょう」ということですかね。
朝倉
そうですね。
さらに我々は、どの部分にどういう障害があるかというところも分析します。食べ物かどうか認識をする力、口の中に食べ物を運ぶ力、咀嚼(そしゃく)する力、咀嚼したものを喉の奥に送り込む力、そしてそれを飲み込む力などを見ながら、どこがどういう障害を受けているのか把握し、介入することが非常に重要だと思っています。
岡崎
なるほど。食べ物を噛んで飲み込みやすいような形にすりつぶせているかも問題になるということなんですね。
朝倉
そうですね。嚥下障害がある方には、とろみをつけたり、形状をやわらかくしたりして咀嚼しなくてもよい形状で食べてもらいます。それを達成したら退院となりますが、退院後もずっとその食形態でいると嚥下機能はどんどん失われ、そこからほかの機能も衰えてきてしまうので、鰻を食べられるような状況はほど遠くなってしまいますよね。
ポイント1
食べたい人にとっては"むせ"こそチャンス!
異物を吐き出す訓練が、嚥下機能の改善につながる
誤嚥性肺炎予防のカギは口の中にあり!?
岡崎
食べ物ではなく、寝ている間に自分の唾液を誤嚥するというのを聞いたことがあるんですが、こういうパターンも多いんですか?
朝倉
誤嚥性肺炎で入院した患者さんが、入院時に絶飲食になり、点滴で治療することが昔は当たり前でしたが、現在ではそれが適切でないとされています。
誤嚥性肺炎の患者さんには、安全確認のもと、初期から嚥下訓練を含めた経口摂取を推奨しているんですね。それは、誤嚥性肺炎は食べ物だけではなく、唾液でも起こるということがわかってきたからなのです。実際に、禁食にしているのに肺炎が悪化したケースもありました。唾液の誤嚥も考慮して訓練を開始し、嚥下機能の改善を図るというのが、今のオーソドックスな治療になってきているはずです。
岡崎
せっかく食事を止めても自分の唾液を誤嚥したら、絶食にする意味がないということですね。
朝倉
そうですね。あと、食べ物を咀嚼するという行為が、唾液を分泌させることに関わっていまして、唾液は口腔内の自浄作用などの機能を持っています。口の中が乾燥してしまっていて、そこにちょっとした唾液があってそれを誤嚥すると、口腔内の雑菌も一緒に飲み込んでしまうことになります。
口腔ケアは重要だとよく言われていますが、乾燥を予防すること、口腔環境を整えることは、誤嚥性肺炎の予防においても非常に重要です。
岡崎
なるほど。実際に誤嚥したとしても、一緒に飲み込んだ細菌類が少なくて、その人にも免疫力があれば肺炎を発症しないこともあるということでしょうか?
朝倉
そうですね。そのプロセスで考えると、発症しても軽症で済みますし、細菌感染を予防することには非常に意味があります。
岡崎
以前、嚥下機能を見てくれる歯科の先生とつながろうというお話があったと思いますが、口腔ケアはやはり歯科医や歯科衛生士に習うのが一番良いでしょうか?
朝倉
一番良い方法かどうかわかりませんが、専門家に見てもらって「こういうふうにしたら良いよ」と指導を受けるのは口腔機能を維持するために非常に重要かなと思っています。専門家は磨き残しなども見てくれますし、私たち看護師も口腔ケアは行いますが、具体的な指導までは難しいことが多いので。
岡崎
口腔ケアというと、ただ歯みがきだけしていれば良いようなイメージがありますが、調べてみると、それだけじゃないことがわかってきて。舌やほっぺたの粘膜の掃除とかいろいろあるんですね。
朝倉
そうなんです。口腔ケアがブラッシングだけだと思われがちですが、それだけでは不十分です。歯牙の欠損や、唾液がちゃんと出ているか、食物残渣(しょくもつざんさ。口の中に残った食べかす)がどういうところに溜まっているのかなどの観察も含めて「口腔ケア」なんですね。
無理やりゴシゴシとブラッシングしてしまうと粘膜が傷つき、そこにカビが生えてしまうので、ブラッシングというよりは清掃というイメージです。スポンジブラシを使ったり、入れ歯の手入れをしたり、実は口腔ケアって幅広いんです。
岡崎
入れ歯のケアは意外と忘れられがちな気がします。あとは、しばらく食べないから入れ歯をつけていなくて、久しぶりにつけようとしたら合わなくなっていたという話も聞きますが、そういう場合は歯科医師に見てもらったほうが良いですよね。
朝倉
そうですね。もちろん早急な修正が必要なんですが、そもそも、食べないから入れ歯をつけないというのは誤った考え方です。歯があるかないかで、会話のしやすさ、踏ん張ったときの力の加減が変わります。
「歯を食いしばる」ってよく言うじゃないですか。人は歯を食いしばって力が出るので、例えばリハビリテーション中の人が入れ歯をつけていなければ、歯茎と歯茎で食いしばれずに力が出せないわけです。食べていなくてもきちんと入れ歯をつける、手入れをするというのはすごく大事なことだと思います。
岡崎
食べられなくなったから入れ歯は外しておこうという人が多いような気がしますが、ここは大事なところなんですね。
朝倉
そうですね。でも入れ歯は非常に高価で、重要物品のひとつですから、病院が「使わなければ外して持って帰ってください」「退院してからをつけてください」と指導するのも理解できます。高額な入れ歯や補聴器は、紛失した場合に保障するのも大変なんですね。自己管理ができない人が病院管理になったときに紛失したり、不具合が起きたり、壊れたりすると、病院側が責任を問われてしまうような状況ですから、なかなか難しい問題かなと思っています。
岡崎
ただ、本人にとっては本来あるべき歯の代わりにつけているものなのだから、食べられる・食べられないにかかわらず、つけておくものということなんですね。
朝倉
その通りだと思います。
さらに、入れ歯は上あごの厚みがあるので、咀嚼だけじゃなくて、舌の奥に送り込む機能のサポートもしています。人は舌を上あごにくっつけて、奥に食べ物を送り込むんですね。入れ歯を使っている人は、入れ歯をつけることでそれと同様の感覚になっているので、入れ歯なしで食べると送り込む能力が普段よりも低下してしまいます。
上あごの厚みも結構重要で、舌の力が足りない人の場合、上あごを厚くするような工夫をして、嚥下機能をサポートする先生もいらっしゃるくらいです。
岡崎
そこまでされている入れ歯を外しておくのはよくないってことですね。
ある程度自分でもケアができる、意思が通じ合える方の場合はそういったアプローチも可能だと思うんですが、よくあるお困りごととして、認知症が進んでいて口を開けてくれないとか、口腔ケアそのものに非協力的とか、ケアだということを認識できないという話も聞きます。そういったときに、歯科の先生たちとはどのように連携をとりながら、ケアができるようにしているんですか?
朝倉
そうした方は確かにいらっしゃいますが、ケアが目的になってはいけないんですね。まずはその方と信頼関係を構築することが一番重要です。もちろん口の中を触られて嫌がることもあるでしょうが、信頼関係がなければ排泄ケアなどほかのことも嫌がると思うんです。でも、本人にとってケアを行うメリットを体験できれば、それをきっかけに信頼関係を築けることが結構多くって。
ケアを行うことはゴールではなくて、本人とどうやって信頼関係を築いていくかというところに焦点を当てると解決に導けるのかなと感じています。
岡崎
そうなんですね。ケアによって、ご本人が気持ち良いと感じられるようなことがあると、それに対する拒否感も減ってくるということですね。
朝倉
そうです。例えば、ほかのことは全部拒否するけど散歩は受け入れられるような方がいらっしゃいます。その方の気分が良いときに、「ちょっとお口の中を見せてください」と言うと口が開いたりすることもあります。本人との信頼関係をどうやって築いていくのかというところは認知症のケアのポイントかなとは思います。
岡崎
やはり大事なところですね、信頼関係というのは。私たちだって知らない人に触られたら嫌ですから、それと一緒ですよね。
ポイント2
誤嚥性肺炎の予防には、口腔ケアが重要
特に入れ歯の管理には注意!食べていなくてもつけておこう
飲み込めなくても大丈夫!楽しく栄養補給するヒント
岡崎
ちょっと話を戻しまして、飲み込む機能が衰えてきた方に、栄養面も含めてどんなことを指導されていますでしょうか?
朝倉
口からしか栄養が摂れないという状況であれば、あの手この手を考えます。どうしても口からじゃないといけない場合には、本人が食べられる形状はどういうものかを検討します。
そして、やはりおいしくないと食べてもらえませんので、よくある液状の栄養剤のほかに、半固形のもの、固形のもの、のどごしが良いもの、味が良いものなど本人に合うものをいろいろと試してもらって、とにかく少しでも口から栄養を摂れる環境を探すことが大事です。
実際に、嚥下障害のある患者さんに活用してもらってよかったなと感じたのは、ブイ・クレスCP10ゼリーでした。患者さんからは、味がしっかりしていて爽やかで、のどごしも良いという評価をいただきました。ほかの食事や栄養剤では食べる意欲が湧かなかったようなのですが、このゼリーは食べることができました。
こうしたケースもありますし、嗜好は人それぞれ違いますから、その人に何が合っているのか確認することが大事かなと思います。甘いものが好きだと思っていたけど、意外としょっぱいものが口に合うなんてこともありますので、その人の状況や環境、そのときの本人の気持ちの聞き取りが重要です。
岡崎
あとは量もありますかね。多すぎると「初めからこんなに食べなきゃいけないの?」と感じることもあるかと思うんですけど。
朝倉
そうですね。病院だと、配膳という形でテーブルに「今日はこれ」って持ってこられますが、在宅だとそうではないので、「こういうのを試してみましょうか」「全部食べなくてもいいですからね」みたいに、"食べたいときに、食べたいものを、食べたい量で"という3点を大事にしないといけないかなと思います。
岡崎
お便りの方も、誤嚥する以上は食べられないまま痩せていくのかって心配されていますけど、まだ試せることがいろいろありそうな感じですね。
朝倉
そうですね。氾濫しているといっても過言ではないくらい、いろいろな情報がありますが、本人にとってどれが一番良いのかっていう選択肢を1つでも多く持つということは非常に重要だと思っています。
ポイント3
その人に合った形状・味を選んで、食の楽しみを取り戻そう!
合言葉は「食べたいときに、食べたいものを、食べたい量で」
岡崎
では、これまでのお話を含めてまとめを1つお願いします。
朝倉
全4回、ご質問にお答えしてきましたが、みなさん共通して「食べたいのに食べられない」「体重が減っている」など食に関することについて困っているんだなと強く感じました。私たちは、本人の力を最大限に引き出して、今後どのように活用していくかを重視しています。食に関するお困りごとがありましたら、近くにいる看護師や医療機関に相談してみてください。ご家庭内だけで苦しい思いをしながら頑張るのではなく、いろいろな人たちに介入してもらって、みんなで課題を解決していくようにしましょう。
今回のまとめ
飲み込む力・食べる力を最大限発揮できる環境づくりが必要
悩みは自分だけで抱え込まず、専門家に相談しよう

Spotify、Apple Podcast、Amazon Music、YouTubeで毎月10日、20日、30日に音声番組として配信中。音声で楽しみたい方はぜひお聴きください。
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