問題解決する栄養療法⾷品

読む介護飯(かいごはん)ラジオ

ここで学べること
「高齢者の痩せ対策委員会」がお届けするPodcast番組「専門家が答える介護飯ラジオ」のWEBページ版です。食支援の専門家をゲストにお招きし、リスナーから寄せられた、介護や食事、痩せに関するお悩みに回答します。

専門家が答える読む介護飯(かいごはん)ラジオ 第3回
高齢者が痩せないために必要な栄養量とは?


※本記事はPodcast番組「介護飯ラジオ」第3回のWEBページ版です。



【介護飯ラジオとは】「専門家が答える介護飯(かいごはん)ラジオ」は、「高齢者の痩せ対策委員会」がお届けするPodcast番組です。食支援の専門家をゲストにお招きし、リスナーから寄せられた「食事」や「痩せ」に関するお悩みに回答、明日から使える実践的な解決策やヒントをお伝えします。「Podcastでの配信内容を文字で読みたい」「気になったエピソードを振り返りたい」という方のために、こちらのWEBページ版「読む介護飯ラジオ」をご用意しました。


■パーソナリティ紹介
岡崎佳子(ナースマガジン編集長)
父はレントゲンの設計士、母は看護師という両親のもとで育つも医療・看護の道には進まず。転職を繰り返すも、常に扱うテーマが栄養・食事という不思議な巡り合わせ。両親を在宅で看取るという体験を経てたどり着いたのは、看護情報誌「ナースマガジン」編集の仕事。取り扱う多様なテーマに四苦八苦しながら、気がつけば前期高齢者。滑舌が悪くならぬよう、口形体操が日々の日課。


■ゲスト紹介
佐々木淳先生(医療法人社団悠翔会 理事長・診療部長)
手塚治虫の『ブラックジャック』に感化され医師を目指し、大学院在学中のアルバイトで出会った在宅医療に魂をつかまれる。病気を抱えながらも住み慣れた地域、家で幸せに生活する患者らに出会い、訪問診療医師として在宅医療の道をひた走る。医療法人社団悠翔会を開設し、全国24拠点から常時約9,000人の在宅患者に24時間の地域医療・在宅総合診療を提供中。「美味しく食べて、最後まで楽しく生きること」を支えている。高齢者の痩せ対策委員会の委員長。




不足しているエネルギー(カロリー)を知るには?


岡崎
本日のテーマは「高齢者が痩せないために必要な栄養量、エネルギー」です。体重を1kg増やすためにどのぐらい必要か、ということを先生に伺ってみたいと思います。
では、お便りを紹介します。20代の女性から、おばあさまの痩せ対策についてのご相談です。


20代女性からのお便り
1か月に1~2回、1人暮らしの祖母の様子を私や両親が見に行っています。75歳と高齢で、先日も大事には至らなかったものの、家の中で転んでけがをしました。 一度に少ししか食べられなくなってから、体重が減ってきて、足も弱ってきた気がするとのこと。半年前に比べて体重が3kg減ったそうです。 しっかり栄養のあるものを食べて体重を増やし、体力・気力を取り戻してほしいのですが、小食の祖母にはどんな工夫をしたらよいのか具体的な方法を教えてください。

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岡崎
おばあさまの現在の体重については書いていませんが、半年で3kg減少ということがわかっています。
例えば、「減った体重を半年かけて元に戻そう」とか、あるいは「1か月に1kg増やすことを目指そう」というときには、エネルギーを増やす必要があると皆さんもおわかりになると思います。
今日は、具体的に体重を1kg増やすための計算、目安、どんなものを食べたらいいのかということを伺いたいと思います。


1kg体重を増やすといっても、人によって条件は違うと思うのですが、一般的にお医者さんのあいだでは、1kg増やすのにどのぐらいのエネルギーが必要だと言われているのでしょうか?


佐々木
実は、体重が1kg減るときの不足するエネルギーと、1kg増やすために必要なエネルギーは違うということから理解をしてもらう必要があります。ダイエットをしたことのある方なら、「体重は減りにくくて、増えやすい」と考えますよね。でも、高齢者の場合は全く逆なんですよ。体重は減りやすくて増えにくい。


7,200kcal不足すると、体重が1kg減るというのがひとつの指標です。半年間で3kg減ったというおばあさんの場合は、1か月で0.5kg減ったということになるので、1か月あたり7,200÷2=3,600kcal足りないという計算になりますね。さらに1日あたりで考えると、大体120kcal不足している。
つまり、このおばあさんが体重を維持するためには、少なくとも1日にあと120kcalは摂らなきゃいけないということがわかります。ただ、体重1kgを取り戻すために7,200 kcal余分に摂っても、高齢者の場合は体重が戻らない人のほうが多いのです。7,200kcal足りないと体重が1kg減りますが、その1kgを戻すためには8,800kcalから、人によっては20,000kcal以上摂らなくてはならない場合もあるようです。


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体重を1kg増やすために必要なエネルギーの例(1か月で8,800kcal追加する場合)


佐々木
最低限必要なエネルギー量は計算できますよね。それに加えて、どれぐらいのエネルギーを摂ると体重が増えるかという話なのです。
このおばあさんにとって一番大事なのは、体重減少を食い止めること。この方は体重が減り続けており、今の食事では1か月に3,600kcal、1日に120kcalぐらい足りていません。だから120kcal分ぐらい、例えばカップのヨーグルト1個加えるとか、今の食事にちょっとしたものを足すと、少なくとも体重は維持できます。


ここから先、もし食事を余計に、余分に食べて体重を増やそうと考えると、どれぐらいのエネルギーが必要か計算するのは、たぶん難しいと思います。基礎代謝や運動代謝、前回お話しした病気によるエネルギーの消耗がどれくらいか......これはもう管理栄養士さんじゃないと計算できません。
ただ、我々はそんなことを知らなくても、今の食事で、どれくらいのペースで体重が減っているのかを確認することはできます。もし体重が維持できているのであれば、今の食事量がぴったりということですし、体重が減っているのであれば、体重減少のペースをもとに1日に足りないエネルギー量を計算することができます。その不足分をまず足してあげて、体重減少を食い止めましょう。


ポイント1
エネルギーが7,200kcal不足すると体重が1kg減ってしまう......
体重減少を食い止めるためにはそれ以上のエネルギー摂取が重要!




小食の高齢者におすすめの食べ物は?


岡崎
先ほど、ヨーグルト1個など例に出していただきましたが、小食の高齢者が少しずつ食べられるような、おすすめの食品ってありますか?


佐々木
例えば、このおばあさんもそうだと思いますが、食が細くなって、少ししか食べられない高齢者も結構いますよね。本当は、我々の胃袋はたくさんの食べ物が蓄えられるようにできているので、気持ち的に食べられないだけという方も多いですが、そうはいっても急にご飯の量を2倍にするのは難しいですよね。
なので、今の食事量は変えずに、エネルギー(カロリー)摂取量を増やせるようにちょっと工夫してみましょう。例えば、栄養素のなかで一番エネルギーが高いのは油、脂質なんですね。お味噌汁にちょっとオリーブオイルを足してみるとか、ドレッシングにちょっと油を増やしてみるとか、中鎖脂肪酸をご飯と一緒に炊いて脂肪分を添加する方法も考えられます。
油をちょっと増やすことでエネルギー摂取量は簡単に増やせます。脂質は1gあたり9kcalあるので、1日の食事のなかで油の摂取量を10g増やせれば、それだけで90kcal摂れることになります。だから、食事量が少ない、エネルギー摂取量が少ないという方は、脂質の割合をちょっと増やすのもひとつの手です。


それから、こういったケースでは「お菓子ではなくご飯をちゃんと食べて」と指導される方が多いと思います。ただ、例えばお米なんかは栄養価が高いわけではありません。もちろんミネラルや食物繊維も含まれていますが、栄養素としては糖質が中心になります。しかも水分量も多く、かさもあります。
もし「体重をなんとか維持したい」「食事量が少ないけど、しっかり栄養を摂りたい」ということであれば、アイスクリーム、チョコレートなどのちょっとエネルギーの高いおやつがおすすめです。ダイエットのときには避けなきゃいけないものが、実は高齢者にとっては効果的なのです。例えば、板チョコ1枚で450kcalほど簡単に摂れます。
だから、白いご飯の量を1.5倍に増やすというよりも、おやつにアイスクリームやチョコレートを食べることのほうが、簡単にエネルギー摂取量を増やせて、なおかつ無理せず食事もできます。


岡崎
洋菓子って、クリーム、卵、牛乳とかいろいろ使うと思いますが、そうすると、あんこを使った和菓子よりも、クリームを使った洋菓子のほうが栄養価としては高いのでしょうか?


佐々木
洋菓子のほうが一般的には1gあたりのエネルギーは高いですが、和菓子も砂糖をいっぱい使っているので、和菓子でも良いと思います。
また、甘いものがあまりお好きでない方もいますが、そういった方におすすめなのはチーズやベーコンですね。あとは歯がしっかりとしているのであれば、アーモンドなどのナッツ類を摂りましょう。これも脂質が多いし、比較的少ない量でエネルギー摂取がしやすくなると思います。


岡崎
なるほど。お年寄りに食べてもらえるものって、自分たちが考えていたよりもすごくいっぱいあるのですね。勝手にこちらが「そんなものよりご飯を食べろ」と言っていた気がします。


佐々木
僕はよく、1人暮らしの高齢者に「もし食事を作るのが面倒くさかったら、ハンバーガーを買っておいでよ」と言っています。ハンバーガーってすごくエネルギーが高いし、たんぱく質量も多いんです。
例えば月見バーガーだと、たんぱく質が25gくらい摂れるし、それにフライドポテトとコーラを付けたら1,000kcal近く簡単に摂れます。
年を取ると味覚が少し鈍化してきて、濃口の物のほうが美味しく食べられるという方も多いです。だから、なんとなく体に良さそうな薄味な物を出すよりも、濃い味の物のほうが楽しく食べられます。もちろんハンバーガーだけではなく、餃子でも、フライドチキンでも、ピザでも良いと思います。


岡崎
なんかすごいですね。


佐々木
体重が減っていく、量が食べられないという人は、栄養の密度を高める必要があります。その場合、脂質を上手に使うことが大切です。一方で、たんぱく質も摂らないと筋肉は減っていくので、いわゆるファストフードは、実は優れた食事と言えるかもしれません。


岡崎
「ファストフードばかり食べるな」と言われて育ってきた世代ではありますが、安心して、自信を持って食べても良いのですね。


佐々木
そうですね。若い人はそういったものばかり食べていると、塩分の摂りすぎ、着色料や保存料などの問題が生じるかもしれませんが、高齢者の場合には厳格に制限しても、全死亡のリスクはそんなに変わらないとわかっていますし、着色料や保存料が問題になるのは何十年という経過を経てからなので、高齢で介護生活が目前まで来ているということであれば、あまり神経質になる必要はないかもしれません。


岡崎
なるほど。小さいお子さんを抱えていらっしゃる方は、オーガニックとか、いろいろとこだわらなきゃいけないこともあるでしょうけれども。


佐々木
そうですね。例えば、健康を意識して取り入れる方も多い玄米なんかも、もちろん良いと思いますが、食物繊維ばかり食べていると、腹持ちが良すぎて食事量を確保できないこともあります。
高齢者の場合には優先順位が違うんですね。もちろん食べても良いですが、それで量を食べられなくなるのであれば、ほかの対策を考えてみましょう。


岡崎
ファストフードでも良いのであれば、もうすでに出来上がっているものを食べられるということですから、食事を作るのが大変という方には向いていますね。最近は外食産業も頑張っていますからね。
コンビニでも、最近は一人用の総菜なども売っていますが、そういったものを買って食べても良いんでしょうね。


佐々木
最近は、高齢者が使いやすいような小さなパッケージのものも多く売っていますし、とくに揚げ物は「高齢者がエネルギー摂取をする」という意味ではすごく便利です。自宅で揚げ物ってなかなか難しいかもしれませんし、スーパーやコンビニなどの総菜も上手に使っていただくと良いのかもしれません。


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ポイント2
いつもの食事に「脂質」を加えてみよう!
お菓子やファストフードを上手に使って栄養価アップ!




お菓子やファストフードが買えない、食べられない......
そんなとき、効率よく栄養を摂る方法とは?


佐々木
「出来合いのものもうまく活用しましょう」という話をしましたが、高齢者の場合、1人で買い物に行けないなど、生活力そのものに問題がある方もおられるので、その際は主治医の先生と相談して、栄養補助食品などを活用してみてください。例えば病院などで使われているものだとか、あるいは栄養治療といいますか、栄養だけを集中的に摂れるような商品もドラッグストアなどでも手に入るので、そういったものを活用しても良いでしょう。


岡崎
少量で栄養が摂れる製品を多くの会社が出していると思うのですが、食べやすいゼリー状のものや、コンパクトで「食べきったという」満足感が得られるものも大事なのでしょうか?


佐々木
最近は、びっくりするぐらい製品のバリエーションが豊富なんですよね。味の種類、強化している栄養素、ゼリー・ヨーグルト・アイスクリームなどといった形態、本当に色々あるので、カタログなどを見ないとわからないかもしれませんが、そういったものを上手に活用していくことも大切だと思います。


岡崎
具体的におすすめの製品はありますか?


佐々木
ケアの現場でよく使うものは、つい処方箋で出しやすいものになる傾向が高いと思います。
ただ、味のバリエーションが少ないのと、どうしても全て独特の甘さがあって、それが苦手という方も多いです。そういった方は、それ以外の製品を活用いただくことがあります。


岡崎
「痩せ対策委員会」の委員であるニュートリーさんが、いろいろなものを作っていらっしゃるのですが、単に甘いものだけではなくて、おかず感覚で食べられる製品もあります。「甘いものが多くて、最初は良いけど続けられない」という話も結構聞いたことがあるのですが、やっぱりそういうものをうまく活用したほうが良いということですね。


佐々木
そうですね。私はずっと「エネルギー(カロリー)とたんぱく」だと言っていますが、体内の代謝を整えるためには微量だけど必要な栄養素があるので、あまり偏ると体に不調をきたしてしまいます。バランス良く食事が摂れないときに栄養補助食品を活用して、不足しがちな栄養素を補給するということも、ケースによっては検討してもよいと思います。


岡崎
最近は市販品に必ず栄養成分表示のシールが貼ってありますが、やはりそれを目安にすれば良いのでしょうか?


佐々木
そうですね。僕は1人暮らしなのでコンビニ依存度が高いのですが、栄養管理のためにもトータルのエネルギーやたんぱくの含有量などは見ながら買うようにしています。「これくらい食べると......」とイメージができれば栄養管理もしやすくなると思います。


岡崎
自分の食生活の中で、几帳面な栄養管理はしなくても良いけれど、食を楽しみながら自分の健康や暮らしを守っていこうというふうに捉えられると良いですね。


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あともう1つお聞きしたいことがあります。私たちはどうしても「朝昼晩の3食」と刷り込まれているのですが、高齢になって栄養をとにかく増やしたいと思ったら、「食べたいときに食べる」でも良いのでしょうか?


佐々木
そうですね。1日あたりどれぐらいのエネルギーが必要かということを一般的には考えるので、食事が2食しかない方は2食でも良いのかもしれませんが、筋肉量を維持するということに関しては、たんぱく質は分割摂取したほうが良いのではないかという論文があったりもします。
もし可能であれば、3食とかそれに加えておやつとか、そんな感じで召し上がったほうがいいかもしれないですね。


岡崎
たんぱく質の多いものを一度で食べるよりは、小分けのほうが良いということでしょうか?


佐々木
本当は小分けにしたほうが良いのだと思いますが、それによって生活が堅苦しくなるということであれば、そこまで厳格にせず、ライフスタイルに合わせて考えることが重要です。


岡崎
ただ、たんぱく質はそうやって摂ったほうが有効に使われるらしいということですね。栄養って奥深いですね。


佐々木
栄養に関しては、まだわからないことが多くて。これまでのいわゆる家政学の延長における栄養と、科学・医学としての栄養の2つがまだ混ざってる状況ですね。
ただ、もちろん栄養と食事は密にリンクしていますし、食事は文化としての側面もあります。科学だけが全てではないし、この辺はやはりバランス感覚も大事かなと思います。


岡崎
本当ですね。やっぱり食事の満足度だったり楽しみだったり、人と喋りながら食べるとか、その辺は大事にしていきたいですね。


ポイント3
ライフスタイルに合わせた食事管理が重要!
栄養補助食品も活用してみよう




岡崎
今日はいろいろと具体的な例も出していただいてありがとうございました。では、恒例のまとめをよろしくお願いいたします。


佐々木
今回、皆さんにぜひ知っておいていただきたいのは、「高齢者の体重は減りやすく、増えにくい」ということです。どれぐらいの食事を摂れば体重が減らないのかということに関しては、体重減少のスピードがわかれば計算できますので、体重が減らない食事の量を知るというのはそんなに難しくないです。


一方で、体重を増やすということに関しては、体重1kgあたり7,200kcalが1つの目安ではありますが、人によっては1kg増やすのに20,000kcal以上必要というケースもありますので、軌道修正しながら対策を続けることが大切です。
ただ、食べているのに体重が減っている場合は、十分な食事量を確保できていないことが多いと思いますので、どうやったら少ない量で必要なエネルギーが摂れるのか考えてみましょう。いわゆる健康に良いというイメージに縛られず、例えば油を活用するとか、場合によってはファストフードやお菓子を活用するとか、そういったことも検討してみてください。


岡崎
はい、ありがとうございました。


今回のまとめ
高齢者は痩せやすく太りにくい!
少量でも必要なエネルギーを摂るための工夫が大事



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